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第57話 新婚旅行④

 ふと沢井は思う。  旅館の女将や従業員たちには自分と黒崎はどのような関係に映っているのか、と。  年の離れた、顔の似てない兄弟?  それとも二人の対外的な関係の通り、上司と部下だろうか?  結婚していて、新婚旅行に来ていると思っている人間はさすがにいないだろう。  いや、でも今日は二人お揃いの結婚指輪をはめている。……勘の鋭い人なら気づいていても不思議ではないかな。 「どうしたの? なに考えてるの? 和浩さん」  沢井は少しぼんやりとしてしまっていたようで、黒崎がくりくりしたバンビのような瞳で見上げてくる。 「うん……、幸せだなって思って」  二人きりの旅行、お揃いの結婚指輪。そしてすぐ傍に雅文がいてくれる。それがなによりも幸せだ。  沢井は従業員たちが皆下がったことを確かめてから、黒崎を強く抱きしめた。  部屋に敷かれた布団と布団のあいだは、二十センチほど空いていた。  沢井が二つの布団をぴったりとくっつけるのを見て、黒崎は真っ赤になっている。  もう二人数えきれないくらい体を重ねているというのに、こういうときの彼の反応はいつまで経っても初々しい。  時々、行為の最中に夢中になって、すごく淫らで大胆になることもあるが、それはそれでうれしいし、大歓迎だが、基本的に黒崎は奥手である。 「なんか、浴衣と布団って、超萌えるよな」 「……和浩さん、なんだか顔つきやらしいよ」  沢井と二人きりのときだけは表情豊かな黒崎が、じとーんとした目で見てくる。  沢井は黒崎を抱きしめ、そのまま彼を守るようにして布団の上へ倒れ込んだ。

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