62 / 69

第62話 新婚旅行・二日目②

 沢井と黒崎は旅館へ帰ると、一日目と同じように露天風呂に入った。  自分で着れると言い張り、浴衣と闘って敗れ、帯がこんがらがった黒崎の姿に、沢井は笑いをこらえるのが大変だった。  結局、沢井がまた浴衣を着せてやり、夕食の膳を美味しくいただき、その夜も体を重ねた。  行為のあと、沢井の胸に小さな頭をもたせかけていた黒崎がポツンと呟いた。 「明日にはもう帰らなきゃいけないんだね……。寂しいな、なんだか」  沢井は彼の柔らかな髪を撫でながら、耳元へ囁いた。 「また休みをとって旅行すればいいさ」 「いくらなんでもそんなに休み、とれないでしょ」 「川上の分の休みをぶんどって、オレたちの休みにあてよう」 「ひどい……、川上先生が聞いたら怒るよ?」 「冗談は置いといて、本当にまた旅行しような。オレもっと色々なところへ雅文と一緒に行きたいよ」  沢井がそう言うと、黒崎はクスッと小さく笑みを漏らした。 「オレたち、せっかちだよね。まだ旅行中だっていうのに、もう次の旅行のこと考えてるなんて」  沢井も同じように微笑んだ。 「確かに、まだ明日も半日残っているもんな。でも多分、土産買うのでつぶれるぞ」  明後日は二人とも朝から仕事が入っているので、明日は少し早めの飛行機で帰るのだ。 「今夜は眠りたくないな……」 「…………」 「和浩さん? どうしたの?」  急に黙り込んでしまった沢井に、黒崎がきょとんと訊ねてくる。 「……雅文、その言葉は誘ってるように聞こえるぞ?」 「えっ……? そ、そんな意味で言ったんじゃなくって……、ただ……」  恥ずかしさにあたふたとする黒崎の唇を、沢井の唇が塞ぐ。  しっとりと口づけを交わし、二人は今一度、愛の行為へとのめり込んで行った……。  ――激しい愛の交わりのあと、心地良い眠りへと落ちていきながら、黒崎は二日間のことを思い出していた。  買ってもらったホワイトタイガーのぬいぐるみ、ジェットコースター、観覧車から見た夕日とキス、露天風呂……、うまく着れない浴衣、美味しい食事……、布団の上での……。……水族館、手を繋いで歩いた砂浜……、それから……。  眠気が徐々に思考を曖昧にしていく。  旅行楽しかった……。でも、でもね……、和浩さんと二人でいれるなら……きっと旅行へ行けなくったって……幸せ……。  マンションの中に閉じこもりっぱなしでも、楽しくて幸せだと思う……。  ね……和浩さん、愛してる……。

ともだちにシェアしよう!