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第63話 休み明けの職場

 沢井が病院の更衣室で、あくびを噛み殺しながら着替えていると、突然後ろから頭をはたかれた。 「……ったいなー、なんだよ?」  振り返ると、川上が恨めしそうな目をして立っていた。 「愛しの黒崎との旅行は楽しかったみたいだな、沢井」 「まあな」  沢井は正直に認める。実際、黒崎との新婚旅行を思い出すと顔が自然とにやけてくるほど楽しかったのだ。  温泉上がりの桜色の肌に、浴衣姿の雅文。……帯がこんがらがっている姿もかわいかったよな。  それに和室と畳、布団での行為が新鮮で、雅文もいつもにも増して敏感に感じまくっていたっけ……。  数々のシーンを反芻していると、川上の冷たい声が飛んできた。 「沢井ー、なんだよそのデレデレした顔はー。クールなイケメンも形無しだな。だいたいだな、仲良く三日も休みとりやがってよー」 「いいだろ。オレと黒崎はいつもこの病院のために働きづめなんだからさ」 「そう言えば、黒崎は一緒じゃないのか? あいつも確か朝からのシフトだろ?」 「ああ。一本あとの電車で来るよ。めずらしく寝坊してな、あいつ」  沢井は白衣に腕を通しながら、そう言い、それから声をひそめて川上に訊ねた。 「ところで、どうだった? みんなの反応は?」 「ああ、三月はかなりカリカリしてたな。他のやつらは、微妙なところかな。でもまあ、薄々なにかは察してると思うけど。……そうだ! 田渕先生がすごい怖い顔してやって来たぞ」  川上は思い出したというように顔をしかめた。 「おまえ、田渕先生にまでカミングアウトしたのかよ? あの人には受け入れられないだろ。考え方が古い人なんだから。なんでか知らんけどオレまで怒られたぞ」 「ああ、悪い」  田渕は沢井と川上の大学の先輩である。それで川上にまでとばっちりが行ったのだろう。 「お詫びに、ほら、これ。お土産。おまえの分だけ別に買ってきたんだから、みんなの前では出すなよ。ちゃんとオレと雅文で試食してきたから味は保障する。酒に合うぞ」  沢井がロッカーの中の鞄からお土産を出して渡すと、苦々しい顔をしていた川上は現金にもコロッと笑顔になった。

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