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第65話 理解と感謝

 お土産を渡すと、松田部長は穏やかに微笑んだ。 「沢井先生、黒崎先生、旅行は楽しかったですか?」 「はい」 「はい」  二人が同時に答えると、松田は笑みを深めた。 「それはなによりでした。お二人にはいつも激務をこなしてもらっていますからね」  そう言ってから、松田部長は沢井と黒崎を順番に見つめた。 「お二人はとてもいい関係を築いているみたいですね。……特に黒崎先生は最初にうちに来た頃に比べると、雰囲気が柔らかく優しいものになったみたいに感じます」 「そうでしょうか……?」  言われた黒崎本人は戸惑っている様子だが、沢井もまた松田部長と同意見だった。  今でも黒崎は職場では無表情で無愛想だ。けれども最初の頃の、人を寄せ付けないオーラというか……自分は独りのほうが楽なんだと、周りを拒絶するみたいな雰囲気はなくなった。  その変化が、自分と愛し合っていることで生まれた変化だとしたら、沢井としてもうれしい。  ……でも、甘えん坊でかわいらしい面を見せるのは、オレの前だけにして欲しいけど。  沢井は心の中でこっそり惚気た。  部長の部屋から退室しようとしたとき、 「沢井先生、黒崎先生。お二人の関係に反発を覚える人もいると思いますが、私はいつでもお二人の味方ですからね」  松田はそう言ってくれた。 「松田部長……」  ありがたいな、と沢井は思った。いくら世間が同性愛に寛容になったとはいえ、やはりマイノリティーであることには変わりない。  沢井と黒崎がどんなに真剣に愛し合っていても、男同士と言うだけであからさまな嫌悪の目を向けてくる人間は少なくないだろう。  そんな中で尊敬する上司である松田が二人のことを認め、応援してくれるのは本当に感謝の一言だ。  隣にいる黒崎も沢井と同じ思いでいるだろう。 「ありがとうございます……」  二人は揃って松田部長へ深々と頭を下げた。 「あんなふうに言ってもらえると、うれしいね……」  部長の部屋を出た途端、黒崎が小さな声で呟いた。 「ああ、そうだな」  沢井も同意し、二人は一瞬見つめ合い、微笑み合った。  それは本当に一瞬のこと。そこに第三者がいても気づかないくらいの見つめ合いと微笑み。  愛し合う二人だけに通じ合う、魂の触れ合いだった。

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