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No.7:曇りのち晴れのち

『お前らって仲いいよな…ここ以外で会う事って無いんだろ?』 エスプレッソマシンに珈琲豆の詰め替えをしている咲。 それを横にお皿吹きをしていたハルは、目の前のカウンター席で今日も甘ったるいドリンクを飲む夕に言われ頷く。 『ここで知り合ってから、他で咲と会った事ないね』 『そういえば…』 話を振られた咲はん~と思案顔。 『ねぇ、今度一緒に遊びに行かない?試合が近いから終わってからだけど…』 『え!』 まるで初デートのお誘いだ… そんな事を思いながら戸惑うハルをにやにや見つめる夕だ。 『いってらっしゃい♡』 『なんか…楽しそうだね…』 ひらひら手を振る夕にムスッとした顔をしつつも、ハルは咲との約束を楽しみにしていた。 ガタン 店先の看板を閉じて中に入ってくると、咲はテーブルの後片付けをしているハルの肩をポンポンと叩いた。 『ハル…何処か行きたい所ある?』 気付けばもう店を閉める時間だった。 同じ事をグルグル考えていた自分が妙に恥ずかしくて、ハルは逆に聞き返す事しか出来なかった。遊園地は男同士だけだとイメージが沸かないし、映画も自分が見るには字幕版を選ばないといけなくなるし、カラオケじゃ… 無い無い!と頭を振りまくるハルに咲が笑う。 『迷ってるなら、フラフラ街歩いて適当に店見るのはどう?』 『…うん!それがいいかも!』 それなら咲の見たい店や好みも分かるし…と考える自分はなんだか恋する乙女だ。 はあああ〜と頭痛がして頭抱えるハル。 (いっそ両思いなら良いのに…そんな都合良くいかないか…ましてや男同士だもんな) どうしたの?と優しく笑いかけてくれる咲に苦笑いでそんな事を思うハルだった。 ―――――――― (最近様子がおかしい…) パシュッ! バスケットボールがネットを通り抜けタンタンッと床を打つ音が体育館に響いた。 全体練習が終わった後、先輩が帰って行く中1年生が残って自主練をしている。 その中で咲もシュート練習を黙々とやっていた。 目線は揺れたネットを捉えたまま、頭では最近のハルの言動ばかりがリプレイされる。 バイトの休憩中、狭いバックヤードですれ違い様に肩が触れると慌てた様子で離れたり。 ふと目が合うとあからさまに逸された。 赤面してるハルを見るとまるで… 「恋する乙女…まさか、ね…」 そんな都合のいい事あるわけ無い…。 掌を見つめぼんやりとあの日の事を思い出した。 【もうこんな事ないようにする ぜったい!】 病院で抱きしめたハルの体、泣いていたせいで小さく震えてた。 そして自分より小さなハルは、抱きしめるとすっぽり腕の中に丁度よく収まり、守りたい気持ちに駆られると共に、何故かそれが心地よかった。 (好き…かもしれない…) 男だ…男だけど、ハルの側は居心地が良くて落ち着く。 はっとその時は何か引き込まれそうな気持ちになり、抱きしめていた手をそっと離した。 ハルを気遣いながら家まで送り届け、その後はぼんやりしていて気づけば自分の家の前だった。 その後店の前で再会した時も―― 久々に見た夕の隣に座るハルの横顔に帰ろうかどうか店に入りあぐねていた。 怪我をして、もうバイトには来ないんじゃないか? 自分にはもう会えないと言われるんじゃないか? そう思っていたのに、自分を見つけて店から飛び出し、抱きすくめてくれた瞬間。 (ハルのことが好きだ――) そう確信した。 ドンッ! 「!!?」 「な〜にボケっとしてんだよ〜」 へらへらと笑いながら咲にわざとボールを当ててきたのは同級生の高遠蓮(たかとうれん)だ。 蓮も咲と同様、1年生では珍しく選抜メンバーに選ばれた1人だ。 「いてーな…ちょっと考え事してただけだろ」 「ふ〜ん、お前が考え事ね。テストの成績でも悪かったか?それとも顧問に叱られたか?」 「…。蓮って俺に対してネガティブ発言しかないわけ?笑」 ふざけた口調であーだこーだと適当な妄想を繰り出す蓮の薄茶色の髪をクシャッと崩してやりながら咲もボールを持ち直す。 「咲、他の奴らが選抜に選ばれたこと羨ましがってんだぜ、怠けてらんないだろ?」 「あ〜、そうだよな…」 自分たちの他にも選抜メンバーに入りたくて日々練習に励む1年生は十数名。 手を抜いていれば「選抜交代しろ」なんて顧問に言われかねない。 「蓮、練習終わったら付き合え」 「じゃあ、俺の筋トレにも付き合えよな」 ぶっきら棒だけど、それが小学校から仲の良い2人のいつものやりとりだ。 それから汗だくになるほど蓮の筋トレに付き合った。 着替えを終えて部室から出ると、ジャリジャリと小石を踏み鳴らしながら正門へ向かう。 「そういえば、どこ行くの?買い物?」 「ん〜そんなとこ」 約束通り咲について行く律儀な蓮だ。 「ここ...咲のお気に入りじゃん」 暫く他愛も無い話をしながら歩いてると大抵の中高生は知っているであろうブランド名が書かれた看板の前で咲が足を止める。蓮は「むー」っと顎に手を当て少し考えると、突然ハッとした顔で咲に視線を戻した。 「お前まさか!好きな人でもできた?こんなブランド服見に来るなんて、デート行く前くらいしかしなかったじゃん!」 バンバンと咲の背中を叩きながら、楽しいネタでも掴んだように蓮がケラケラ笑う。 その顔が爽やかで嫌味のない顔だから余計ムカつく…、と咲は心の中で呟いた。 「それに似た感じ…」 「何それ?」 「今度遊ぶ約束があんの。初めてプライベートで会う相手だから、ちょっとマシな格好を選びたくて」 「…咲、それを好きだから格好つけたいって言うんじゃないのか?」 「…」 「ずっ、図星!」 返す言葉が無くなった様子の咲に、我慢できず吹き出す蓮。 「今度紹介しろよ♪」と言いながら乗り気で店内に入って行くと、まるでコーディネーターにでもなったつもりなのか次々と咲に似合いそうな服を持ち出して来た。終いには「君の見立てはセンスが良いね」と若い店主から褒められる蓮を、マネキン気分で苦笑しながら見ていた咲だった。 「ありがとう、助かった」 「おう!本当にお前ってイケメンの癖にセンスないからな~」 「悪かったな…」 いつも学校の往復は制服だし、私服の日は大抵が休日、家の中では上下スウェットかGパンにTシャツかパーカーというのが咲の定番。それを知っている連は残念そうに上から下まで咲を見る。服選びが苦手な咲はいつだって、何かイベントや約束で‟マシな恰好”をしたい時、決まって連を呼ぶのだ。 「なぁなぁ、今度遊ぶってどんな子?」 「ん~」 どう伝えれば正解なんだろう…と咲がぼんやり遠くを眺めていた時だった。 「ぁ…」 「あ?」 2人の目の前にその‟どんな子”が現れた。 街並みの中を楽し気に笑いながら歩く2人組に咲は声を漏らした。

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