34 / 85

番外編『冬休みが終わる前に』〈累目線〉

「累って、サッカーとか出来たんだねぇ。俺、びっくりしたよ」 「そうかな。ありがとう」 「三学期は体育でサッカーあるし、累とやれるの楽しみだなぁ。バスケはさすがに無理だろうけど……」 『ほしぞら』へ訪問した帰り道。幼い子どもたちとたくさん外で遊んだあとの快さもあってか、空はいつにも増して弾んだ口調だ。  空が楽しそうだと、累の心も弾むというものである。微笑みを返しながら累は予てから思っていたことを口にした。 「僕は空がバスケしてるとこ、ちゃんと見てみたいな。今度、試合あるんだよね。行ってもいい?」 「えっ……う、うん……いいけど、なんか恥ずかしいなぁ」 「そう?」 「へへ、どうせならカッコいいとこ見て欲しいもんね。張り切りすぎて空回んないようにしなきゃ」  そう言って笑う空の笑顔は、これまでにも増して柔らかく、そして可愛い。  帰国してすぐは累との距離感を掴みかねていた様子もあった空だ。だがしかし、累はきちんと気持ちを告げ、少しずつ距離を詰め、そしてとうとう身体をつなげたあの日からこっち、空を取り巻く空気が変化したように感じている。  親友としての距離感はもちろんある。だが二人きりの時、空はそこはかとなく甘えを含んだような表情で累を見つめては、ちょっとはにかむように愛らしい笑顔を浮かべてくれるようになった。  これぞまさに『恋人同士』と感じられるような麗しくもしっとりとした空気感に、累はすっかり舞い上がっているのだ。……といっても、ステージ慣れししすぎているせいか、顔には一切現れないのだが。  ――はぁ、今すぐ空を抱きしめたいな……。僕のことを好きだと思ってくれてるっていう気持ちが、目線から伝わってくる気がする。……はぁ、かわいい。好き。もっとひっついて甘やかしたい……。 『ほしぞら』からの帰り道に、ファーストフードショップに寄って軽い昼食は済ませている。今日のレッスンは午後7時からだ。……少しくらい、いや、少しではもう足りない。空ともっと近づきたい。  冬休みももう明日で終わりだというのに、膨大な量の宿題のせいで、クリスマス以来、まるで甘い時間が過ごせていないのだから。  累はひと気のないことをいいことに、するりと空の肩を抱き、冷気でやや赤くなった耳のそばで、低く囁いた。 「空、これからうちに来ない?」 「え? でも、レッスンあるんだよね?」 「夜からだから、大丈夫。……冬休み、もう終わっちゃうんだよ?」 「あ……」  する……と空の指に密かやかに指を絡め、意図を込めた眼差しで空を見つめる。  すると空はすぐに累の思うところを察したらしい。ぽっと頬を赤く染め、うるりと目を潤ませた。      +  帰宅してすぐに、累は空の手を握って自室へと招き入れた。  着衣を解くことさえもどかしく、すぐさま空をベッドに押し倒し、キスの雨を降らせた。  空もそれを望んでいてくれたのだろうか。累の首に腕を絡めて、空からも積極的にキスに応えてくれるのだ。それが嬉しくてたまらず、累はわずかに微笑みを浮かべながら空と繰り返し唇を重ねて、あたたかな肌へ指先を忍ばせてゆく。  すると、空がびくっと身体を震わせ、笑い声を立てた。 「ふえっ……! 累、指冷たいよっ……」 「あっ……! ご、ごめん」 「ううん。ふふ、コートくらい脱ぎなって」  そういえば、空のダウンジャケットは脱がせてしまったものの、累はコートを着たままだ。自分のあまりの余裕のなさに呆れながら、累は苦笑しつつコートを脱ぎ、ついでのようにセーターも脱ぎ捨てた。部屋の空気の冷たささえ心地よく感じるほどに、累の肉体は既に熱を籠らせている。  上半身裸になった累をうっとりした眼差しで見つめ、空が微かにため息をついた。 「ねぇ空。今日……最後までしてもいい?」 「っ……う、うん……いいよ。俺も、したかったし……」 「ほんと?」 「うん……」  そう言って、空ははにかむような笑みを浮かべた。  明るいままの部屋だ、ほのかに赤らんだ頬の色や、しっとりと濡れて潤んだ瞳の美しさがよく分かる。  さっきまで無邪気に保育園児を追い回していたというのに、自分にはこんなにも色香溢れる表情も見せてくれるのかと思うと、幸せでたまらない。累を欲して吐息を熱くする空に見つめられるだけで、累の欲望の火はさらに滾った。 「ん、っ……ぁ、あっ……」  優しくしなくてはと、頭では分かっている。だけど、本能に追い立てられた身体のほうは、そう簡単にはコントロールが効かなかった。食らいつくようなキスで空の吐息を全て奪い、半ば荒っぽい手つきで空の着衣を乱していく。  空が欲しくて欲しくてたまらなかった。初めてのセックスからまだ一週間程度しか日が空いてないとはいえ、ずっとずっと、空を抱きたくて仕方がなかったのだ。  自慰などではもはや何の満足も得られなかった。空のぬくもりや匂いに包まれたい。乱れる空をもっともっと見てみたい。この身体で、空の中を感じたかった。  これまでもずっと、自分の脳みそが煩悩にまみれている自覚はあったが、一度空の味を知ってしまってからはずっと、自分では制御できないほどの欲求に突き動かされそうになり、押し留めることに必死だった。 「んっ……ぁっ……るい、っ、んっ……」  下だけを露わにした空の脚を開かせ、指で後ろを慣らしてゆくあいだも、累はずっと空とキスを交わし続けていた。空を傷つけるわけにはいかないから、もちろん指にはコンドームを装着しているし、たっぷりとジェルを使うことも怠らない。  だが、こんな荒っぽい愛撫で、空が快楽を得てくれているのか――と、唐突に不安が湧き上がる。累ははっとして、空から唇を離した。 「空……ごめん、僕」 「ん……?」 「っ……」  見つめた空の表情は、途方もなく淫らに、しどけなくとろけていた。累とのディープキスのせいか頬は上気し、唇は赤く艶めいて、とろんと開かれた瞳はしっとりと涙に濡れている。薄い胸を上下しながら累を見上げ、空は一、二度ゆっくりと瞬きをした。 「るい……ごめん、って、なにが?」 「い、いや……ちょっと乱暴だったかなって、思って」 「そんなことないよ? ……おれ、累にキスされると……頭ぼーってなっちゃって……それどころじゃないっていうか」 「……ほんと? 無理してない?」 「してないよ。……きもちいいよ、るい」  優しい微笑みを浮かべ、やや呂律のあやしくなった口調で、空はそう言った。あまりにもそれが淫らで、可愛くて、累は一瞬脳天をガツンと殴られたかのような衝撃を受けた。が、唇を引き結んで深く呼吸をし、必死で己を制御する。  ――ああ、もうっ……かわいい……!! 空、こないだよりずっとエロいな……どうしよう、前ほど丁寧にできないかもしれない……。  早く抱きたい。自分の身体で、もっとあられもなく乱れる空が見てみたい。空と気持ちよくなりたい、空の中で達したい――ぐるぐると、欲望が累の脳内を駆け巡る。  身体のほうもすでに限界が近かったのだ。ジッパーを下げ、きゅうくつなジーパンの中で嵩を増しているペニスを解放して、累はコンドームに手を伸ばした。 「空。もう、挿れるね」 「う、うん……。わ……すっごくおっきくなってる」 「っ……そら」  ゆっくりと起き上がった空が、累の屹立を見て目を瞬いている。かと思えば、まだゴムを装着していない累のそれに手を伸ばして、先走りで濡れた先端にそっと触れるのだ。  それだけで、びりびりと全身に甘い刺激が駆け巡り、累は思わず吐息を漏らす。 「るい……手、ジェルで濡れててやりにくいよね。俺がゴム、つけたげるよ」 「えっ……いや、大丈夫だけど」 「ううん、やらせて? 累の身体も、もっとよく見てみたいもん」  累の手からコンドームを引き受け、空は累の怒張をしげしげと見つめた。こんなふうにじっくり観察されることに、羞恥とともに興奮を禁じ得ない累である。  しかも、空はどことなく蕩然とした眼差しで、小さく喉を鳴らしながら、ぎこちない手つきでコンドームをつけ始める。……累は必死で、イキそうになるのをぐっと堪えた。 「できた……よ」 「うん……ありがとう、空」 「しよ、累。……挿れて?」  ちょっと気恥ずかしげにベッドに横寝し、空はおずおずといった口調で累を誘った。  ついこの間までウブの極みだった空が、まさか自分から『挿れて』などと言ってくれるとは思わず、感激のあまりゾクゾクと興奮が高まってゆく。  ぐいと空を仰向けにして膝頭を掴み、脚を大きく開かせてみれば、空のペニスもすっかり勃ち上がり、雫を滴らせているではないか。  脳みそが焼き切れそうなほどに興奮しているが、累の唇に浮かぶのは悠然とした薄笑みである。ジェルで濡れそぼった空の窄まりに切っ先をあてがいながら、累はうっそりと目を細めた。  そして、ゆっくりと中へ、腰を押し進めてゆく。 「ァっ……ぁ、っ……ン……」  ぬぷ……と先端を包み込む熱い熱い圧迫感に、累はグッと奥歯を噛み締めた。そうでもしなければ、あっという間に達してしまいそうだったからだ。  きゅん、きゅん……とひくつきながら累のペニスを包み込み、中へ中へと引き込むような動きをする空のナカは、腰が砕けそうに気持ちが良い。 「そら……っ……。はぁ……っ、すごいな……」 「ん、んっ……るい、るいっ……」 「ハァ……っ……すごく、イイ。そらの中、すごく気持ちいいよ」  始めてのセックスの時、空は始めとても苦しげだった。まだ二度目のセックスなのだ、きっと苦しいに違いない……と思ったけれど、空はゆっくりと呼吸をしつつとろけるような甘い眼差しで累を見上げて、「るい、こっち、こっちきて」と腕を伸ばしてくる。  さらに空の奥までを暴きながら、累は身を屈めて空にキスをした。すると、待ち侘びていたように首に空の腕が絡まって、ぎゅっと強く縋られる。  空はまだ、だぼっとしたオーバーサイズのパーカーを着たままだ。肌と肌で触れ合いたくて、累は空の舌を甘く吸い上げながらパーカーを抜き、空を裸にした。 「んっ……るい、っ……ァっ……は」  空のほっそりとした身体は、とてもとても美しい。熱さを孕んだ空の肌は汗に濡れ、累の肌に吸い付くように艶やかだ。  結合部から累を駆り立てる快楽はもちろんのこと、こうして肌と肌で密着している状態はとても幸せで、心地よくて、安心できて……累はぎゅっと空を強く抱きしめながら、無意識のうちに腰を上下に揺すっていた。 「ん、んっ、ぁ。ァっ……ぁっ……ん」  累の硬く尖ったもので内壁を揺さぶられるたび、空の唇からは甘い声が漏れる。空の感じているものが快楽だと累にも分かるほど、空の肌は柔らかく、唇は素直だった。 「そら……奥のココ、こうされるの、良さそうだね。……きもちいい?」 「ん、ぁんっ……ん、きもちいい……いっちゃいそ……っ……」 「じゃあ……こういうのは? すき?」  そう前置いて、累はぐぐ……とぎりぎりまで腰を引き、改めてのように空の中へとペニスを突き立ててゆく。まだキツさの残る空のナカでそうして動くだけで、気を抜けば射精してしまいそうな快楽が、累に襲いかかってくる。 「ん、ァっ……! はぁっ……るい……っ」 「ピストンされるの、どう……? 苦しい?」 「んっ、イイ……っ、きもちいいっ……、ァっ……ぁっ……!」 「ふふ、僕もだよ」  初めは慎重に、ゆっくりと動いていた。だが、累からもだんだん余裕がなくなり、気づけばピストンが速くなる。    ぬち、ぬちと結合部から溢れる水音の淫らさや、ぶつかり合う肌の音。そして背中に食い込む空の指の感触にさえ興奮を煽られ、累はいつしか無我夢中になって空を穿っていた。  上体を起こして空の腰を掴み、さらに奥を狙って腰を打ちつける。そうしていると、快楽に溺れながら声を上げる空の表情がよく見えて、よりいっそう累のペニスは硬く盛った。  天使のように笑う空も愛らしいけれど、累の愛撫に乱れてくれる空の表情もたまらなくかわいい。空の白い肌が薄桃色に染まるさまも、累に穿たれるたびに揺れる空の性器も、薄く開いた唇から溢れ出す艶っぽい声も――ずっと望んでいた空とのセックスに、累は心から酔いしれていた。 「ぁ……、あっ、あ、あぅっ……、ンっ」 「そら、そら……すきだよ、好きだ。……そら、はぁっ……」 「はァっ……、んっ……るい、っ……だめ、ァっ……おれ、いっちゃう……っ」 「イって、見せて? セックスしてるときのそら、すごくえっちでかわいい。……イくとこも、全部見せて」 「もっ……ばか、るいっ……ッ……ァっ、はぁっ……」  累はぐっと身を乗り出して、空と手を繋いだ。指と指の絡まった手をシーツに押し付けながら深い抽送を繰り返していると、空の目からは再び理性が消え失せてゆく。 「っ……るい、っ……ァっ……! ん……ッ、イく、イくっ……!」  やがて空はびく、びくっと身体を震わせ、累のペニスを強く甘く締め付けた。きつく目を閉じ、声を震わせながら快楽に溺れる空の表情のいやらしさに煽られて、累はさらに激しく空を穿った。そしてほどなく、累も堪えきれずに達してしまう。  本当はもっとこのままでいたいのに、ずっと空と繋がっていたいのに……と、己の不慣れさが歯痒かった。  うっとりと目を閉じ、肩で息をしている空の頬にキスをする。すると空はゆっくりとまつ毛を持ち上げ、累を見上げて幸せそうに微笑むのだ。  空の満たされた表情を目の当たりにすると、もっともっとと欲張りたくなる累の気持ちも、するりとほどけてゆくようだった。  累は肩口に顔を埋め、はぁ……と深く息を漏らす。そして、素直に気持ちを吐露した。 「……空とするの気持ち良すぎて、すぐイっちゃうな……」 「はっ? こ、これですぐ、なの……?」 「え?」 「いや……じゅうぶんだとおもうんだけど……」  累の挿入から解放された空は、気恥ずかしげに身体を横向きにして床に落ちていたパーカーを引っ張り上げ、胸に抱えた。射精したことでようやく我に返ったらしく、恥ずかしそうに視線を泳がせている。  そうしているもの空に戻った姿もまた可愛くて、累は思わずふふっと笑った。膝まで下ろしただけだったジーパンを引き上げて、ちゅっと、空の耳にキスをする。 「今日の空、すごくエロかった。なんだかすごく興奮しちゃったな」 「そ、そうかなぁ……。まぁ……その、ずっと我慢してたからってのもあるかも」 「えっ、そうなの?」 「いっ、いや! あの……そんな、ずっとえっちなことばっか考えてたわけじゃないよ!? 累もほら、忙しそうだったじゃん? だから……えーと」 「空……」  照れながらたどたどしく本音を語ってくれる空に、胸のときめきが止まらない。累は思わず表情を綻ばせ、空をぎゅっと抱きしめた。 「嬉しいな。空も、僕としたいって思っててくれたんだね」 「うっ……うん、そりゃ、ね」 「ふふっ、空。これからは気にせず、『セックスしたい』って言ってね」 「えっ!? ストレートすぎだよね……」 「ふふ、ホッとしたよ。嬉しいな」  累があまりにもニコニコしているからか、空の照れ顔も徐々に緩み始める。  戯れのように空の唇に軽いキスを重ねながら腰や背中を撫で、空を間近に見つめながら、累はうっとりと微笑んだ。そんなことをしていると、空はだんだん顔を赤くして、軽く累の胸を押し留める。 「ちょっ……あの、そんなことされたら……っ」 「ん?」 「た、勃っちゃうからやめてっての。……ほら、もう時間もないしさ……っ」 「時間はまだ大丈夫だよ。ねぇ空、もう一回してもいい?」 「も、もう一回!?」 「ダメ?」 「うっ…………ダメ、ではない、です……」  小首を傾げて許しを乞えば、空はかぁぁと顔を赤く染めつつも、こっくりと頷いてくれた。そうして自分の欲望を受け入れてくれる空の優しさが愛おしくてたまらない。  覚えたての快楽に振り回されないように気を配りながら、累は丁寧に丁寧に空の全身をキスで溶かしてゆくのだった。  おしまい♡

ともだちにシェアしよう!