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【第2話】アマゾンがくるまで(3)
賃貸アパートの2階。
端の角部屋が有夏の部屋で、幾ヶ瀬はその隣りに住んでいる。
つまりこの部屋だ。
家が隣り同士というのは、彼らにとっては色んな意味で都合が良いようで。
しかしこの薄い壁に遮られているというのは、また別の葛藤をももたらすようで。
「ねぇ、有夏ぁ、一緒に住もうよ」
「は?」
鬱陶しがられていると悟ったのだろう。
幾ヶ瀬は俯いてしまった。
「だってさ、こういう時不便だし。それに一緒に住んだら家賃も半分ですむし。どうせ有夏はいつもうちに入り浸ってるんだから。何だったら広い部屋に移ってもいいし」
あ、そうだと幾ヶ瀬は手を打った。
「とりあえず俺の部屋を引き払って、有夏のとこに一緒に住もうよ。有夏ん家、角部屋だからちょっとだけ広いし、お風呂に窓もあるし」
「うーん……」
有夏が気まずそうに首を振る。
「ご、ごめん、有夏」
温度差を感じたか、幾ヶ瀬も黙り込む。
彼の表情が凍り付いたことに、さすがの有夏も焦ったようだ。
「や、違くて! 住むにしても、有夏の部屋はちょっとマズイかなって……それだけ」
「何で?」
幾ヶ瀬の声が低い。
頭の中で何パターンかの「ちょっとマズイ」理由を考えているに違いない。
「……有夏?」
依然として声は低いままだ。
「また散らかしたの?」
それはそれは綺麗な顔を、有夏は信じられないくらいに歪めた。
「……またってか、散らかしたってか、別に散らかすつもりとかじゃなくて!」
後半は逆ギレだ。声を荒げてプイとそっぽを向く。
「お風呂の窓も?」
「は?」
「お風呂の窓も見えないくらいゴミで埋め尽くされてるの? また!?」
「………………」
有夏、と怒鳴られて彼は不貞腐れたようにその場に転がった。
「ゴミじゃないし……全部大事なものだし……」
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