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【第3話】設定18℃にしていそしむこと(2)
「でも有夏、まだ5月なんだし……。じょじょに暑さに慣れてかないと。今からエアコンつけてたら勿体ないでしょ」
チラリ。
有夏が背後へ視線を送る。
「幾ヶ瀬はそうだよね。有夏の体調より電気代なんだ」
「有夏……」
昨年の夏のこと。
有夏が24時間エアコンをつけっぱなしにしてダラけていたものだから、幾ヶ瀬がリモコンを取り上げて隠したという経緯があったのだ。
その隠し場所を、彼はまだ知らない。
初夏の暑さに、不意にそのことを思い出したのが有夏の苛立ちの原因かもしれなかった。
「もうヤだ。vitaまで熱いし」
ゲーム機を放り出し──ちゃっかりセーブはしていたようだが──有夏はコロリと寝返りをうつ。
途端、顔をしかめた。
シーツの冷たい場所を求めて寝返ったのに、目の前には風呂上がりの幾ヶ瀬が横たわっていたから。
有夏より幾分、体格も良い為に圧迫感もあったのだろう。
「暑くるしっ……」
呟くと再び背を向ける。
「有夏―?」
幾ヶ瀬がしつこく名を呼ぶが、無視。
背筋を凝視する視線を感じたか「暑っ」の連呼は「キモっ」に変わった。
「有夏、頼むよ」
「ヤだ。幾ヶ瀬、キモい」
何度目かの「キモい」で、スプリングが大きく軋む。
幾ヶ瀬が立ち上がったのだ。
スタスタと1DKのキッチンへ向かう背は強張っていて、追う有夏の視線が訝しげに揺らぐ。
キッチンの上段の棚から大鍋を出し、幾ヶ瀬は蓋を開けた。
当然といった動作で、そこから取り出したのは去年から隠されていたエアコンのリモコンだ。
あっと有夏が声をあげる。
有夏が絶対に見ない場所だからねとでも言わんばかりの表情で、ピピピピッとボタンを長押ししている。
それに反応してベッド際の壁に設置されているエアコンの送風口がウィーンと音たてて開いた。
冷たい風がベッドを直撃し、有夏は「んー」と至福の吐息をついて目をとじる。
戻ってきた幾ヶ瀬が尚も無言でいることを気にした様子はない。
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