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【第7話】カラフル(2)
眼鏡を外して、大袈裟な仕草で目元を覆う。
すると廊下に立つ青年が、聞こえるように大きくため息をついた。
「幾ヶ瀬、もういいから。早く出てけ」
「出てけって…有夏が俺にそんな冷たいこと言う? 離れ離れになっちゃうのに」
「……ウザっ」
明らかに温度差がある。
有夏と呼ばれた青年が苛立ったように首を振るのも無理なかろう。
先程から、このやりとりが延々15分は続いている。
Tシャツと短パンという有夏の身なりから、彼が幾ヶ瀬の見送りに玄関まで出てきているのは察せられた。
やわらかな髪に寝癖はないが、長い睫毛を伏せたその顔はすこし腫れぼったく、寝起きだということが伺える。
「もっかい。いってきますのチュウしよ」
「は? キモっ!」
「でなきゃ、勃ったまま駅に行く」
「なにそれ、脅し? 幾ヶ瀬が恥かくだけで、有夏はべつにどうでもいいんだけど?」
「そんなこと言わずに、ちゅうぅぅぅ」
唇を尖らせながらにじり寄る幾ヶ瀬に、後ずさる有夏。
伸ばされた両の手に、ガシッと顔を挟まれる。
「ちょっ、痛い……」
「まぁまぁ」
「まぁまぁじゃねぇし…ちょっ、やめ……んっ」
ついばむように軽く触れる口づけ。
唇が離れても、互いを求めるように何度も触れ合う。
触れては離れる唇がくちゅくちゅとたてる音、それから扉の向こうから聞こえる蝉の鳴き声だけが室内を満たした。
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