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【第7話】カラフル(5)
「さて、行ったな。何が浮気だ。キモいわ」
廊下に顔を半分出してヒラヒラ振っていた手を止めると、有夏はじりじりと室内へ後退する。
大学生の有夏にとっては、今は夏休みである。
もっとも若干のコミュ障と、立派な引きこもりを抱えた有夏にとっては、年中休みという向きもあるが。
自分のことを「有夏」と名前で呼ぶ様からも、彼がかなりのこじらせ方をしているのは想像がつこう。
同じ間取りの隣りの自分の部屋、それからここ幾ヶ瀬の部屋だけが彼の王国だ。
今は朝の6時前。
幾ヶ瀬が戻ってくるのは明日の夜遅くになるという。
その間、40時間ほどはあろうか。
「自由だ……」
フフ……。
──途切れ途切れの低い笑い声が哄笑に変わる。
特撮番組の悪役さながら、ひとしきり笑って。
ノド乾いちゃったと呟いて彼は冷蔵庫を開けた。
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