70 / 359

【第8話】ヘンタイメガネの変態たる所以(6)

「うぅ……」  仕方ない。  自首する凶悪犯の気持ちでアタシはドアを開けた。  すみませんでした、と言いかけた時だ。  ヘンタイメガネがアタシを押し退けて部屋の中へ侵入したのだ。  止める間もない。  無言で狭い部屋を見回し、キッチンスペースを確認し、お風呂とトイレまで見やがった。 「ちょっと、何するんですか。乙女の部屋を」 「誰が乙女……クソビッチが! ああ……すみませんね。まさかと思ったけど、一応確認したかっただけなんで。居ませんでした、はい」  今小っさい声でクソビッチって言ったな。 「誰か探してるんですかぁ? 同居してる胡桃沢さんのことですかぁ?」 「同居じゃない。同棲だ!」  一応気ぃ遣って「同居」って言ってやったのに、真っ向から言い切りやがった。  アタシは知ってるぞ?  正しくは同居でも同棲でもねぇぞ?  有夏チャンの部屋は別にあるんだから。  幾ヶ瀬による強制掃除が完了すると有夏チャン、自分の部屋に戻るじゃないか。  すぐに散らかしてゴミ屋敷に戻ってしまうんだが。  ……悲しいかな、有夏チャン。  こう書くと、まるで本当にダメ人間みたいだ。 「胡桃沢さん、出て行っちゃったんですかぁ。さっきケンカみたいな大きな声が聞こえてましたもんねぇ」  おっとヤバイかな。怒らせちまうかな。  ノゾキがバレたわけじゃないとホッとしたアタシ、ちょっと大胆に出てみた。 「珍しいですね。胡桃沢さんが怒るなんて。いつも穏やかにお菓子食べて……」  あ、ヤバイと気付いた。  ヘンタイメガネが試合前のボクサーみたいに「フシューッ」と息を吐いたからだ。 「期限切れの菓子で有夏を餌付けしようったって、そうはいかないからな。この雌豚が」 「ヒィ。ごめんなさい……」  何てことだ、面と向かってメスブタ呼ばわりされた!

ともだちにシェアしよう!