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【第10話】夏のなごり(2)

「………………」 「嘘だよ。冗談だって」  あながち冗談ともとれないのだが。  洗い物を終わらせて、幾ヶ瀬が部屋へ戻ってきた。  若干、ハラスメントの匂いはするものの、これは幾ヶ瀬のいつもの軽口だ。 「でもさ、お詫びに映画見るの付き合ってよ。明日休みだから借りてきちゃった」  見慣れぬレンタルショップの袋を手にしている。 「ネットで見りゃいいのに。ん? ツタヤじゃねぇの? 珍し」 「VHSでしか出てないんだよ、この作品。この店、ビデオデッキも貸してくれるから」  見るとテレビの横に大きな紙袋が置いてあるではないか。  ズッシリと重そうな袋の中には、今は滅多にお目にかかれないビデオデッキが入っているらしい。 「ビデオ? 懐かしっ。うちにはなかったけど、中島ん家で昔の戦隊もの見たわ」 「また中島かっ!」 「ビデオ見ただけだって。何だっけ…忍者の戦隊モノ。知ってる?」 「知らないよ、情報少なすぎるよ! ああ、またもや疎ましき中島が! ビデオデッキで有夏を釣ろうなどと!」 「あぁ、もぅ、めんどくせぇな。で? 幾ヶ瀬は、そうまでして何が見たかったんだよ?」  幾ヶ瀬にアイスを舐めさせてやりながら、デッキの接続を手伝う有夏。  いつもならしつこく嫉妬の言葉を繰り返す幾ヶ瀬だが、今日ばかりはVHSのソフトを持って上機嫌だ。 「じゃーん! 『稲川淳二の恐怖物語4』!! 『てるてる坊主』ってのが名作らしいんだよ」

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