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【第10話】夏のなごり(3)
「……お前スキだなぁ。いっつもキャーキャー言うくせに」
「何年もずっと探してたんだけど、全然なくて。この店でやっと見付けたんだよ!」
「はぁ……」
幾ヶ瀬は意外とホラー好きだ。
テレビの心霊番組も欠かさず見る。
見られない時間帯のものは録画までして。
好きなくせに1人では怖くて見られないという彼に、いつも付き合ってやる有夏は、そのテのものにはまったく動じない。興味もないと言う。
「オバケより、リアルにうちの姉ちゃんらの方が怖いわ」なんて言って。
最近めっきり見なくなったビデオテープというものをじっくり眺めてから、幾ヶ瀬はデッキの中へそれを押し込んだ。
ガコンと音をたててテープが吸い込まれる。
中でウィーンと動く気配。
「ささ、有夏」
幾ヶ瀬が麦茶を用意すると、アイスを食べ終わった有夏はちゃっかりプチの「チョコラングドシャ」と「フランスバターのクッキー」を出してきた。
「別に幾ヶ瀬が見たいってんなら付き合うけどさ。面白いか? 稲川淳二。何言ってっか分かんないだろ。字幕がなきゃさっぱり……」
「あっ、有夏! コラッ! 怪談の神に何てことを!!」
「怖くないし」
「だから何てことを! それがいいんだってば。日常のふとした隙間に思わぬ怪異がっていうのを、独特の語り口で話してくれるんだよ。あの人は日本が誇る職人だよ!」
「ほぅ、語るねぇ」
「ジャパニーズホラーみたいに、やたらめったら脅かしてくるんじゃなくて、怪談ってのはどこか人間臭さが残ってて、あったかいんだよ。そこがいいんだって」
「……語るねぇ」
なんてやっている間に始まったようだ。
どこか荒いビデオテープの映像に「怪談の神」が映っている。
『スタッフの女の子がガタガタ震えている。稲川さぁん、ちょっと聞いてくださいよという。まっ……青な顔をしてブツブツ言ってる。こわいよーこわいよー』
「えっ、幾ヶ瀬? これ何言って……?」
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