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【第10話】夏のなごり(4)
「しっ! 黙って!!」
語りが進むにつれて、映像は薄暗い廊下を映し出した。
左右に等間隔で並んだ扉。
非常口を示す電灯はチカチカ瞬いている。
建物の全体像が映り、そこが病院であると分かった。
「へぇ…ドラマ仕立てになってるんだね」
早くも有夏の腰に両腕を回しピタリと寄り添って、幾ヶ瀬。
夜の病院というシチュエーションに既に呑まれているようだ。
「稲川先生の『REIKO』ってやつも怖いって噂聞くんだけど、そっちは見付かんなくて。もぅ、絶対みたいのに!」
「イナガワセンセイ……?」
ラングドシャとクッキーを交互に食べながら、有夏は呆れ顔だ。
「うま! フランスバターのクッキー、もう1個買っときゃよかったな……ぉお!?」
幾ヶ瀬の腕の力が強くなり、有夏は呻いた。
痛いと言っても、彼は画面に夢中だ。
次々と映し出される怪異の映像と効果音に、心なしか血の気を失っている。
「これ……思ってたのと違う…………」
「は?」
「こ、怖すぎる……」
有夏の首筋に顔をうずめて、しかし視線だけはちゃっかりテレビの方を向いている。
成程。
幾ヶ瀬の言う人情味のある怪談話というより、これはジャパニーズホラーの枠に入る作品のようだ。
しかもかなりレベルの高い。
病院を舞台にした理不尽な恐怖体験を、ドラマ仕立てで描いたものであり、幾ヶ瀬の表情が見る間に強張っていくのが分かる。
「はぁぁ……ぁぁぁ…………ありかぁぁ!」
声が可哀想なくらい掠れている。
悲鳴にすらならないらしい。
「そんなになるなら見なきゃいいだろが。土台、作り物なんだし」
「ちょっ、台無し! そういうこと言わないでよ! 心霊映像の中には本物も混ざってるんだよ!」
麦茶を一口飲んで、有夏はちらりと幾ヶ瀬を見上げる。
「まぁ、中には本物もあるかもな。実際、そのテの話はよく聞くし。幾ヶ瀬……」
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