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【第17話】『閲覧履歴に基づくおすすめ商品』は人物の内面を完全に晒す(3)
「よるのじゅ……」
有夏の返事など待つ気はないというように幾ヶ瀬がたたみかける。
「夜の11時半だよね! 勤務時間なんと13時間! 早番の入り時間に、遅番の上がり時間。何これ。ねぇ、何なの、これは……」
「あー……とにかくフロ入って落ち着けや、な?」
幾ヶ瀬は聞いちゃいない。
有夏に抱きついたまま、顔だけあげて「おぅおぅ」と吠えている。
「最近、ふざけたカップルばっか来やがる。あいつら全員、滅せよ」
「ちょー、いくせー?」
滅せよ、の声のあまりの低さに有夏は顔を引きつらせてPS Vitaを横に置いた。
幾ヶ瀬の勤務先レストランは、先週末から「春恋特別コース」の提供を始めたらしい。
春よ来いとかけてのネーミングに、店長ひとりがご満悦だと幾ヶ瀬がぼやいていたのは、つい1週間前のことだ。
「あのイカれた店長、SNS映えする苺とチーズのデザートなんて作りやがって。いいかげん映え発想から離れろよ! あいつ、いつ死ぬんだろ。ねぇ、あいつはいつ死ぬの!?」
「さぁ。有夏にはちょっと分からないかな」
「だよねぇ。あ~あ~」
季節のプランを始めただけで従業員に死を願われるなんて、店長もこれは青天の霹靂であろう。
職場に対して定期的にキレて喚くのは、幾ヶ瀬のクセと言っても良い。
有夏の反応が淡白なのも、もう慣れっこになっているからだ。
「やっぱり、YouTuberになるしかないのかな。ホラージャンルが難しすぎたのかも。別のジャンルなら俺でもできるよね! ねぇ、俺には何が向いていると思う?」
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