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【第26話】冬のあさ(1)

 午前6時に、この家で人が活動しているのは稀だ。 「有夏、見てっ」  語尾が跳ねている。  カーテンを開けて窓に額を付けているのは、長身の男だ──この部屋の主、幾ヶ瀬である。  半分閉じていた目が、外の白を認めるや否や、しっかりと開かれた。  トイレにでも起きたのだろう。  すぐにベッドに戻るつもりらしいのは、眼鏡をかけていないことからも分かる。  カーテンの隙間から差し込む光がやけに眩しいので外を見たのだろう。夜のうちに積もった雪に驚いた様子だ。 「有夏、起きて」 「ビックリするから、ホラ見て」 「ちょっとでいいから、起き……ちょっと!?」 「おーい、あり……」 「……アホりか? もしもーし、アホりかさんー?」 「世界一のアホりかさん? 怠け者のクズりかさん?」  少々ドキドキしながらの、渾身の悪口。

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