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【第29話】秘密の撮影会(8)

「頑固おじいさんの証明写真じゃないんですよ? 表情険しすぎですよ」 「うむっ……」  レンズを向けられ、反射的に奥歯をギリギリと噛み締めていた有夏が困ったように呻き声をあげた。 「じゃあ、有夏さん。好きな漫画のことでも考えてみましょうか。ニッコリ笑顔、いただきますよぉ?」 「どれ?」 「は?」  ここでようやく幾ヶ瀬のテンションも落ち着いたとみえる。  「は?」の声の低いこと。 「好きなマンガってどれのこと?」 「えっ……いや、何でもいいんだけども」 「何でもいいは困る」 「う、うん……」  幾ヶ瀬、うーんと唸る。  面倒くさいからもうやめようと言い出さないところが、バカップルのバカップルたる所以であろう。

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