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【第30話】独りのときのテンションたるや(6)

 叫ぶや否や、一気に力が抜けたようにへなへなとベッドに座り込む。 「これはダメだ。キメゼリフが甘い……」  キレが悪いなと意味不明のことを呟いて、有夏は肩で息をする。 「これ以上は無理だ。今ので肩を持っていかれた。でも、もう少し……」  端正な顔を歪めて、有夏は何だかブツブツ呟いている。 (端正な──というのは、もちろん黙っていればの話だ)  ──え、嘘? なにこれ……。有夏サン? 頭をどうかされちゃったの?  徐々に扉を細くしていきながら、幾ヶ瀬。  自宅なのに、入るに入れない。  とりあえず有夏が何かやっているのは分かる。  遊びなのか、計り知れない意図があるのか──。  もう少し様子を見ようと、5センチほどの隙間を覗き込んだその時。  ガチャン。 「あっ!」  キーチェーンが大きな音を立てた。  有夏がはっとこちらを振り向く気配。

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