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【第32話】最後の攻防(3)

「ああ……分かった、分かった。こうしよう」  ヤレヤレとでもいうかのように首を振って、有夏は立ち尽くした。  右手を腰に、左手で前髪をかきあげる。  無駄にキメたポーズに幾ヶ瀬のこめかみがビクビクと痙攣するが、有夏が気に留めるはずもない。 「ギリッギリまで出しとくこう。梅雨すぎるまで。それでいいよな」 「いやいやいや、よくないですよ? 有夏サン?」  今度は幾ヶ瀬が己の額に手を添え……いや、「イィーーーッ!」と唸って髪をかきむしった。 「梅雨って……正気なの? やめてよ。ゾッとするよ。虫わくってば!」 「ムシハ、ワカナイ」 「いやいやいや、根拠ないでしょ?」 「ムシハ、ワカナイ」 「イィーーーッ!」  どうやら二人とも、歩み寄る気配はないようだ。

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