有夏はバスツアーになんか行きたくないという言葉など、幾ヶ瀬には届いちゃいまい。 「楽しいだろうな。有夏と並んでバスに座るんだ。旬の果実をもいで、食べさせ合いっこをするんだ。アハハッ」 「いーくーせー？」 「あーんって言って、食べさせ合いっこするんだ……アハッ。ツアー仲間のおばちゃんから、アラアラ仲良しさんねなんて言われて……アハハッ」 「いく……？」 　何を言っても無駄だろうと、有夏が言葉を呑み込む気配。 　そろりと座卓から離れ、じりじりと移動を始めた。 　発狂する幾ヶ瀬を刺激しないように距離をとり、隙をみて外へ飛び出す算段であろう。 　しかし、彼の思惑は外れた。 　遠くを見つめて「アハハッ……アハハハッ」とやっていた幾ヶ瀬が、ぎょろりとこちらを向いたのだ。