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【第35話】冬だけど…リアル怖い話(2)

「い、いや、何も……」  コホン。  おねむろに咳ばらいをした幾ヶ瀬。  気を取り直してノートパソコンのディスプレイを覗き込んだ。  さっきのは気のせいかもしれないし、なんて呟きながら。  11.6インチの小さな画面は、横からだと真っ暗に見える。  ディスプレイの正面に回るために、幾ヶ瀬は座り込んだままの有夏とベッドの隙間に足をねじ込んだ。 「邪魔だなぁ。くっ、こいつ、避けようともしない……」  ブツブツ呟きながら、やけにゆっくりと動く幾ヶ瀬。  さきほどチラ見した画面を、もう一度確認する勇気を振り絞っているからだろう。  デスクトップの背景はイタリアの都市フィレンツェの画像である。  何話であったか、チラと出てきた「中世イタリアの男娼館」の妄想が高じて、幾ヶ瀬が設定したものだ。 (ちなみに昨夜は、アリカを狙う金持ち客とバトルを繰り広げるという妄想に興じたものだ)  ──それは置いといて。  今、そこにあったのはフィレンツェの美しい景色ではなかった。  全体的に画面が暗い。  その中央に灰色に浮き出たのは、染み……だろうか。  いや、違う。  土気色の皮膚。輪郭に沿ってペタリと貼りついた黒髪。窪んだ眼窩。  じっとりした視線。  画面の向こうからこちらをじっと見つめるのは、見たこともない女の顔であったのだ。

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