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【第36話】おやくそく(2)

 初歩的なギャグに笑う気にはなれないのか、幾ヶ瀬はその場で肩を落とす。 「はぁぁ……いつもの有夏だ……」  深い溜め息とともにキッチンへ向かうと、ヤカンを持ってきた。  今朝沸かしたお茶は、ほどよい具合に冷めている。  コップに注いでやると、有夏は一気にゴクゴクと飲み干した。 「プッハー! この一杯のために生きてらぁ!」  聞きなれぬそのセリフは、きっと今読んでいるマンガの影響に違いない。  エナジーがどうとか回復量がどうとか、したり顔で呟いたあとのこと。  ようやく幾ヶ瀬の様子に気付いたか、怪訝そうに顔をしかめた。 「どした? また心霊現象にでも悩んでんのかよ」 「またって何? そんなにしょっちゅう心霊現象に悩まされたりしちゃたまらないよ。てか、35話だって別に霊は関係なかったわけだし」 「35話?」  小首を傾げる有夏に向かって「ああ、またこの謎の時間軸が」と叫ぶ件(くだり)はいつものことである。  しかし何かが違うことに気付いたのだろう。  有夏のしかめっ面が少々険しいものに変じていった。

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