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【第36話】おやくそく(3)

 そう、いつもの幾ヶ瀬とは何かが違う。  圧倒的にツッコミにキレがないのだ。  だからといって心配する様子もないのは相変わらずか。  シレッとした表情で有夏は紙面に視線を落とした。  放っておくと「エナジー切れ」になるまで、またゴロゴロとマンガを読むのだろう。 「あのさぁ、有夏……」  寝転がる有夏の傍らに座り込んだ幾ヶ瀬。  お茶で濡れた唇を見つめながら、ぽつりと呟いた。 「有夏はいつか……俺から離れてくの?」 「は?」  あまりに唐突な言葉に、有夏が雑誌から顔を上げる。  大きな目を見開いて、ポカンと口を開けて。これは見慣れた間抜け面だ。 「もぅ……何か俺、ツラすぎるんだけど? 有夏がちゃんと大学に行ってたなんて」 「はぁ?」 「引きこもりで学校どころか、人と会話なんてできない有夏なのに……」 「はぁ?」

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