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【第36話】おやくそく(4)

 大概失礼な言い草に、有夏の口元が強張った。  構わず、幾ヶ瀬はブツブツと続ける。 「この1年、ろくに学校に行ってなかったから安心してたのに。なのに先週は二日も大学に行ったっていうじゃない! どうしちゃったの!」 「……どうしちゃったのって幾ヶ瀬のがどうしちゃっただよ」  憤慨する有夏になど目もくれず、幾ヶ瀬は尚も失礼極まりない言葉を吐き続けた。 「もしも有夏が毎日ちゃんと大学に通ったら?」 「もしもたまたま運よく卒業なんてできたら?」 「もしも有夏が(まさかの)就職でもしたら?」  そこまで言うと、幾ヶ瀬の食いしばった歯の隙間から「ヒーーーッ」と変な声が漏れた。 「もしもメス豚共の目に留まってしまったら? い……いや、大丈夫。一言でも喋ろうものなら馬鹿がバレてメス豚は離れていくだろう。いや待って。忘れちゃいけない。有夏はコミュ障なんだよ。喋らないから周りは誤解したままだ」  ふたたび「ヒーーーッ」と叫ぶと、今度は頭を抱えるではないか。 「ヒーーーッ! どうしよう。彼女なんて作ったら!」  さらなる「ヒーーーッ」は四度目か?

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