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【第36話】おやくそく(5)

「有夏、罪悪感なく二股とかかけそう。馬鹿だから人の気持ちとか考えられなさそう。それは辛すぎる。耐えられない。もう嫌だ。こんな思いをするなら、いっそ今お別れしたほうがマシかもしれない」 「はぁ?」  有夏が雑誌を横に置いた。  この男は突然、何を言い出すんだという表情である。 「やっぱり前回の心霊現象が、お脳に相当なダメージを……」  チラと横目で見やった棚には、例のノートパソコンが置かれている。  あれ以来、布がかかっているのはホコリ避けではあるまい。  ウイルス画像の「怨念女」が「出てこない」ようにするためだろう。 「有夏は姉ちゃんに脅されて、試験だけは受けろって無理やり大学に連れていかれただけなのに……」  大きく溜め息をついた有夏。  おもむろに右手を伸ばした。 「うっ!」  有夏の右腕に胸倉をつかまれ、幾ヶ瀬は呻き声をあげる。  その視界に迫ったのは、きれいに整った有夏の顔であった。  一瞬の後。  鼻がぶつかり、唇が触れる。

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