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【第36話】おやくそく(6)

「アダッ!」  ガチッと音が鳴り、双方、口を押さえて俯いてしまった。  歯が激突したのだ。  かなりの勢いだったから、ジンジンと激しい痛みに有夏ときたら涙ぐんでいる。 「中学生じゃないんだから……」という幾ヶ瀬の言葉を遮ったのは有夏だ。 「なんで有夏が学校行っただけで別れるとか言うんだよッ!」  拳で涙を拭うと幾ヶ瀬の膝に腰をおとし、おでこを彼の肩に押し付けた。 「ぜったいヤだっ!」 「あ、有夏……?」  幾ヶ瀬の両手は有夏の腰を持つべきかどうか、オロオロと宙をさ迷っている。 「いっしょって言った! ずっと!」  叫ぶ声は、最早震えている。  痛みとは違う感情でうるうると瞳を濡らす、素直な視線が痛くて幾ヶ瀬は咄嗟に顔を伏せた。 「ご、ごめ…有夏……」 「ごめんじゃない! 絶対ヤだし! 別れないしぃ!!」

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