401 / 431

【第37話】春の嵐(4)

「な、何かなぁ、有夏サン? 面倒事を人に投げたから、自分はもう関係ないとでもいう顔かなぁ? 俺はまだ片付けてあげるなんて言ってないんだけどなぁ?」  有夏の膝で踏まれたタオルを強引に引っ張る幾ヶ瀬。  入念にパタパタと払ってから畳んだが、さりげない嫌味が有夏に伝わっているとも思えない。  窓の外に夕ぐれの色を見ながら、幾ヶ瀬。再びのため息。  ──明日は早番だったよな。嫌だなぁ、あの部屋の掃除は疲れるんだよな。何ていうか精神的にどっと……。 「……お姉さんは何時に来るの? 夜くらい?」  ヤッターとばかりに笑顔を作ると、信じられないことに有夏は幾ヶ瀬の膝に乗っかった。  いつのまにやら、手には今週号のジャンプがスタンバイしているではないか。  幾ヶ瀬を座椅子代わりにジャンプを楽しもうという腹か。この状況で? 「もうすぐったらもうすぐじゃね? 1時間くらい? 有夏、知らないし」 「いやいやいやいや、有夏さん?」  アマゾンの箱と緩衝材と漫画とゲームとフィギュアが散乱したあの部屋の有り様を思い出す。 「あれを1時間で片せる人がいたら、それは魔法使いだって。掃除のプロだって半日は……いや、もっとかかるって! 第一、あの汚部屋は通常料金じゃ無理だって!」

ともだちにシェアしよう!