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【第37話】春の嵐(5)

 ひでぇ、と有夏が呟く。 「生ごみはないから全然マシな方だって、幾ヶ瀬言ってたのに……」 「いや、それは言葉の綾ってやつで……。いや、待って。全然マシなんて言った覚えはないけどなぁ! だって有夏、あの汚部屋! あの惨状!」 「そこまで言うとは……」 「ごめ……」  俯く有夏の頬に手を差し伸べかけて、幾ヶ瀬は「ハッ!」と息をのんだ。  危ない危ない、無条件に謝りそうになったと小さく呟く。 「違うし! 何で俺が悪いみたいになってんの? おかしいよね? 今しなきゃいけないのは掃除だよね? 誰の部屋の掃除なの? 有夏の部屋だよね? それに有夏、俯いて泣いてんのかと思ったら、マンガ読んでるだけだよね!」 「ごめんー」  たたみかけられ、調子に乗っていた有夏もしょんぼりとうなだれる。  しかし、膝には乗ったままだ。一向に立ち上がる様子はない。 「幾ヶ瀬、怒んなって……」 「ごめん……怒ってないし」

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