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【第37話】春の嵐(12)

「そ、それはすみません。あの、でもこのあいだテストだけ受けに行ったらしいです……」 「うふっ、馬鹿が試験だけ受けたとて……ねぇ?」 「う、うふ……」  幾ヶ瀬の額が見る間に白く変じてゆく様に気付いているのかいないのか、何番目かの姉は「うふふっ」とキレイに口角を上げ続けている。 「うふっ、どうせアイツ馬鹿だから。大学通わせたところで学費が勿体ないだけだってみんな言ってるの。どうせなら働けばいいのにって。それもどうよって思うけど? だって、あの子がまともに働けると思う?」 「う、うふ……」  幾ヶ瀬の口元がヒクヒクと引きつる。  みんな言ってるって、家のみんなってことなのかな? だとしたら胡桃沢家の中で有夏、ちょっとだけ可哀想だ……。 「ちゃんと学校に行かないと罰金だって。うふっ、うちでは盛り上がってるのよ?」 「う、うふ……?」 「いい? 罰金って言っておいてね!」 「うふ……あっ、痛ぁ!」  バシッと幾ヶ瀬の肩を叩いて、何番目かの姉は帰っていった。 「お、お茶も出さずに申し訳ございませんでしたぁ!」  90度の角度で頭を下げて、階段に消えるまで見送り続ける幾ヶ瀬。

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