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【第37話】春の嵐(14)

 嬉しそうに包みをあけて、自由の女神のメモスタンドを目にした有夏は、目に見えてガッカリしたように肩をおとした。 「これ5個目だ……。もぅいらねぇ。幾ヶ瀬、やる」 「あ、ありがと……」  正直、俺もいらないと口にしなかっただけ、大人の対応である。 「貰いものってさ。欲しい物じゃなかったらお金がいいな。お金か食べもの。そう、お金じゃなかったら、食べてなくなるもの」  身も蓋もないことを言いながら、有夏はそそこさとジャージの上着を着込んだ。 「久しぶりに外に出たわ。この時間、結構寒いのな」 「ふーん、ベランダを外って言うんだ」  嫌味が通じるはずもないと分かっちゃいるが、つい言いたくなるのが人情というものだ。  呆れ顔の幾ヶ瀬の表情だが、しかし次の瞬間口元を押さえた。 「なに?」 「いや、別に……」  にやにやと顔が緩んでいる。 「いや、シャツが……うふふっ」 「はぁ?」  日中は気温が上がっても、この時期は夕方になると一気に冷え込む。  そのせいだろう。有夏がジャージを着こむ際、Tシャツ越しに乳首がツンと立っているのが見えてしまったのだ。  「外出先」のベランダが寒かったのだろう。

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