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【第37話】春の嵐(15)

 ジャージの胸元に不躾な視線を送るのを堪えるためか、幾ヶ瀬はわざと難しい顔をして唸ってみせた。 「うぅん、ヌーディストの涼華お姉さんが怖いという訳じゃあないけども。でも、この馬鹿を学校に通わせるにはどうしたらいいんだろう。だって学校に行かなきゃ、馬鹿は一生馬鹿のままじゃないか」  ブツブツと小さな声に、有夏は頬を歪めてみせた。  「不愉快」と顔に書いてある。 「何言ってんの、幾ヶ瀬? 今度こそ別れるって?」 「ち、違うって!」  エイプリルフールに嘘の別れ話でからかって以来、有夏は時折この話を持ち出してくる。 「あれはホントにごめんて。冗談なんだって。そうじゃなくて、そのぅ……お姉さんが大学行かないと罰金だって仰ってて……」 「あっ!」 「え?」  まじめな話をしようとしていたのにと、遮られて戸惑う幾ヶ瀬。  有夏ときたらジャージの首元をキュッと握った。 「え、あ、ごめん……」  幾ヶ瀬は慌てて視線を逸らせた。  乳首の残像がちらついて、Tシャツ越しに胸のあたりを凝視していた気がする。  いや、どうだっただろう。  もう無意識レベルでの目線の動きだから自分でもよく分からない。

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