413 / 431

【第37話】春の嵐(16)

「ほほぅ、幾ヶ瀬?」 「ほ、ほほぅって何?」 「ほほぅ、続きを?」  有夏の顔がニヤついていることに、幾ヶ瀬は気付いた。  そういやさっきは寸前で中断させられたんだった。  有夏ときたら、今もそのノリのつもりなのだろう。  あるいは大学とか罰金という話題が嫌で、回避しているつもりなのかもしれない。  こちらとしては何だか春の嵐に巻き込まれたようにドッと疲れて、その気も失せてしまったのだが。  これが毎日家にいて元気を持て余しているニートと、常に疲労困憊な労働者の差であろうか。 「何だ、しないのかよ」  幾ヶ瀬の呆れたような表情を見て、有夏は口を尖らせた。  所在なさげに下ろした手を次の瞬間、幾ヶ瀬がつかむ。 「……待って。しないとは言ってない」 「はぁ? 何だよ、その言い方……もぅいいよ」 「待って待って! するする!」  返事も待たずに手を伸ばすと、ジャージとTシャツの裾をまとめて上へずり上げた。  突然、晒されたせいか。  薄い桃色をしたそれがキュンと縮むように立ち上がる。  遠慮する様子もなく両手でつまんで、指の腹を使ってこすり合わせるように触ると、それは見る間に固くなっていった。

ともだちにシェアしよう!