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【第37話】春の嵐(17)
「有夏、裾持って……」
ずり落ちてくるジャージとTシャツを有夏の手に押し付けるとき、頬を赤らめて何とも言えない神妙な表情の彼と視線が絡み合った。
「はぁ、かわいい。有夏……」
──じゃなくて、と、幾ヶ瀬の表情が固まる。
そうだ、大学に行かないと罰金だって伝えなくちゃいけないんだった。
あのお姉さん、とにかく怖かったし、伝言の役目だけはちゃんと果たしておかないと。
大学に行く、行かないは有夏の自由だし。
罰金を払う、払わないも有夏の自由だし。
とにかく伝えさえすれば俺に火の粉が飛んでくることはない……はずだし。
連帯責任みたいに俺が罰金をしょい込むことなんてならない……はずだし。
ああ、待って。ズルイって言われたらどうしよう。
その場で頭を抱える幾ヶ瀬。
「だって、俺のせいじゃないし! 俺、別にズルくないし!」
「はぁ? 何言ってんの、幾ヶ瀬」
有夏の呆れ顔を直視せずにすむよう顔を背け、幾ヶ瀬はおずおずと切り出した。
「ごめ……あの、罰金が絡んでるからちゃんと言うけど。その……」
口を開きかけた時のこと。
有夏の唇から吐息が漏れた。
「もう! 幾ヶ瀬、はやく!」
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