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第1話 貴様なんか運命じゃない!-1

 運命の日の朝。  優秀なアルファが上流階級を占めているこの国で、侯爵家に生まれたオメガであるアスセーナは財を尽くした派手なドレスを前に、感嘆の声を上げた。 「すごい!お父様、お母様…っ、私なんかのために有難うございます!」  今日、待ちに待った16歳のデビュタントの日を迎えたアスセーナのために誂えられたドレスは、彼によく似合う深い紫を基調として、ふんだんなレースとスパンコールで飾り立てられていた。派手な装飾にも関わらず美しいマーメイドラインを保っていることから、デザインもまた一流のデザイナーによるものだという事がうかがえる。  どこを見ても職人の技が光る超一級品に、アスセーナはほぅ、と深い息をついた。  子を産むことに特化した性であるオメガは、アルファのように優秀でもなければ、ベータのように平穏に過ごすこともできない。月に一度はくる発情期のせいでまともな職にもつけず、他の第二性に見染められて家に入る以外はロクな人生を歩めない運命であった。  貴族であればその扱いの酷さは更に顕著で、長子であったとしても家業を継ぐ権利がないのは当たり前、それどころか一族にオメガが産まれたことすら隠すために秘密裏に売り飛ばされている、などと噂も立つほどだった。  オメガ自体の数は全体的にとても少なく、希少といえるほどであるのに、鑑賞用以外に役に立たないとして痛く冷遇されていた、そんな時代――――。  そんな社会的地位の低いオメガにとって、このデビュタントは唯一人生を選べる機会。より良い相手と巡り合い、その旦那様に生涯愛され続けることだけが、唯一オメガが平穏に暮らせる道だった。  だが、アスセーナは自身の幸せなどどうでもいいとすら考えていた。  このデビュタントの日まで愛を注いでくれた両親のためにも、家のことを全て背負わせてしまう兄のためにも、より良い家に嫁ぎ実家の家格を上げることは何を犠牲にしても優先すべきことであると、自身が産まれた理由を誰に言われるでもなく認識していた。  そのためだけに唯ひたすら勉学や美容に励み"商品価値"を磨き続けてきたのだ。  その自負だけが、アルファ達の家でひとり劣等種――オメガとして生まれてきてしまったアスセーナにとって、前を向いて生きていける支えであった。

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