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 遺伝子を残すことに特化しているせいか、オメガは時に全てにおいて優秀と言われるアルファを凌ぐほど美しく成長する。アルファの家に生まれたオメガは、とりわけその傾向が強い。 半日かけて肌を磨き上げ、髪を美しく結い上げたアスセーナは、鏡をみて自信満々といったふうに微笑んだ。  すっと通った鼻筋に、夏の空のように輝く淡い青の瞳、それを包む長い睫毛に口紅要らずの赤く色付いた唇…、まるで人形のように整った美しい顔。それに加えて、若草を思わせる黄緑の美しい髪は白い肌によく映え、長く伸びた手足も僅かに括れた腰も細く美しく整っていて、まるで絵画から飛び出してきたかのような理想的な美しさである。  ただ勝ち気につり上がったその目だけは、ギラギラと彼が生きていることを証明していた。  身にまとったドレスはどこもぴったりで、一歩歩みを進めるごとに揺れる大きなレースが彼の華やかさを一層際立たせた。それは見る者達に、まるで豪華な花が自由な足を得て歩き出したかのような感動を与えた。 「お嬢様、涙が出るほどお美しいですわ。」  長年アスセーナに仕えてきた侍女が、本当に涙を浮かべて訴えてくる。 「もう、レジーったら大袈裟なんだから!」  それに笑って返すと、アスセーナは自宅の大広間に用意された会場へと歩みを進めたのだった。 *~*~*~*~*~*~*~*  会場の扉が開く。  名前を読み上げられ、次期家長である兄のエスコートのもと会場の奥に用意された上座へ向かう。  場内の視線はいっせいに見目麗しいオメガ一点に注がれ、アスセーナは満足げに微笑んだ。  多くの若者がその微笑みを独占できる雄になりたい!と願ったのは、オメガのフェロモンがアルファを引きつけるからという理由だけではなかっただろう。  赤く染められたビロードを張った豪華な椅子に腰掛け、ゆっくりと瞼を開いた。  会場の豪華なシャンデリアの光を受け、小さな昼間の空に星が瞬いたその瞬間!思わずその足元に片膝をついた若者が何人いたことか! 「こほん、先ずは家長である私よりご挨拶があります。」  随分前から奥の上座で待機していた父が前に出て挨拶を始めたことで、呆気にとられていた会場は一先ず平静を得た。  人はいいが挨拶の長いことが欠点である父のスピーチが済み、いよいよメインの挨拶の時間。  ここでアスセーナの人生の価値が決まるといっても過言ではない。気を引き締め直した彼は、もう一度ピンと背を張り座り直した。    一番初めに呼ばれたのは、公爵家の次男である。…確かこの家の長男は既にアルファ女性と結婚していたな。  ピアスをいくつもあけているような軟派な見た目に、ゴテゴテと飾り付けた装飾類にも趣味の悪さが滲み出ている。が、金は潤沢そうならまぁいい。保留。  次に呼ばれたのは公爵家のアルファ女性。オメガの妾をいくつも抱え込み、ふしだらな生活をしているともっぱらの噂で、仕事についてはいつまでも父の後を継ぐ様子もないそうだ。…没落しそうな家は却下!  その次は同じ家格の長男。まあまあ趣味も良い。保留。  と、品定めを続けていよいよ後半に差し掛かった。  後半は家格の低い家々なので、はっきり言って時間の無駄でしかない。しかし、一応はこちらから招いた客であるため、今暫くこの無駄な作り笑顔を貼り付けておくしかない。耐えろ。 (早くおわらねぇかな…。)  先に挨拶を交わしたアルファ達とは明らかに見劣りする外見、装飾品も流行遅れのデザインや量産品の安物ばかり。たまたま生まれたアルファで成り上がった家や、没落寸前の家など覚える気もしない連中ばかりが続いて、アスセーナはあくびが出そうだった。  さっさと挨拶を終わらせて、さっきから横で待ち構えている良家の坊っちゃんとダンスでも踊って気を晴らしたい。 「では次の…フランメ様、どうぞ。」  名前を呼ばれて現れたのは、一際体格のいい男性だった。  アルファの因子が獣からきていると言われる理由のひとつに、稀に肉食獣のような猛々しい雰囲気を持つものが現れるからというのがある。彼もまた、大型の猫科動物のような畏怖と品格を兼ねた独特のオーラを放っていた。 (珍しい、先祖返りか…。)  そんな彼が上座の前に辿り着き目があった瞬間、ズグン、と心臓が跳ね上がる。  頬がどんどんと熱を持ち、それにつられて身体中が火照っていく。なんだこれは!熱い…! 「…え、な…んだ?この匂い…まさかっ、」  あぁ、そんな声で喋るのかと聞き入ってしまったことに気がついて、アスセーナは驚いた。  机の上に開かれた性教育の教科書でも一番興味のなかった部分。 『運命の番に出会うと、相手のフェロモンに反応して身体が受胎の準備に入ります。』  沸き立つ甘いフェロモンの匂いに、会場全体がざわめき出す。  アルファまみれの場所で発情してしまったのでは誰に襲われるともしれないとサッと血の気が引いたが、そんなことはお構いなしに身体はどんどん熱を上げていく。 「お、おい!?」  差し伸べられた手に思わず縋りつこうとしたが、ふわりと視界を掠めたドレスの色に失いかけた理性をなんとか取り戻した。 「い、いやだ!お前なんかじゃないっ!!」  理性とプライドでその腕に飛び込もうとする本能を押し込み、差し伸べられた手を叩き落として逃亡を図る。  その際に椅子に足を引っ掛けて転んでしまったが、気にしている場合なんかじゃない。とにかくこのオスの匂いから遠ざからなければ…!

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