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第一章 (4/4)

 自分だけはこんな目に合わない。  フェロモンを認識できない自分だけは、理性を奪われることはない。  ずっとそう信じてきた。なのに――。  きつく閉ざされた隘路が怒張に押し開かれ、一気に奥まで突き上げられる。 「――あぁッ! あっぁッん!」  内臓を押し上げられるような衝撃と共に、重い快感が体内に響いた。  悦ぶ身体とは逆に、心は絶望につぶされそうだ。  感じたくなどない。いっそ、痛みだけのほうがいい。だが引き抜かれる感覚に肌は震え、また奥まで貫かれる刺激に声を抑えられなくなる。 「あっ、あっ! ん……ぅ……はっ……!」  生々しい音を立てながら濡れた内部を掻き混ぜられる激しい律動に翻弄される。痛みが疼きに変わり、苦しささえも愉悦に呑まれていく。  熱い――。  中も、外も、覆い被さってくるエルベルトの身体も。  腹の裏を擦られる度に快感が走り、奥を突かれると瞼の裏に白い光が爆ぜるほどだった。触れられない中心が先走りを溢し、知らず腰を揺らしてしまう。  絶えず嬌声を上げているのが自分だという意識すら薄れていった。  ――こんなの、知らない……ッ。  性欲が全くない自分がこんな淫らに感じているのが信じられない。  もっと欲しいと、願ってしまいそうで怖い。 「これが……」  低く唸る声が耳に触れたが、続いた言葉を聞き取ることはできなかった。  熱い息を吹き掛けられるだけでうなじが粟立ち、そのむず痒さを治めて欲しくてたまらない。  ――噛んで……そこを――。 「違っ! あっ! うっ……んっんん」  唇をきつく噛み締め、霧散する理性を必死に搔き集めた。  今、何を願いそうになった?  身体は支配されても、自我までは奪われるわけにはいかない。  ――奪われて、たまるか!  額を床に擦り付け、拳を握り締めた。 「強がっても無駄だ」 「ぅ……あッ! はっ、あッあぁ!」  罰するようにエルベルトの動きが激しさを増す。腕を引かれ、上体を持ち上げられると繋がりがより深くなって喉を反らすほどの快感をもたらした。 「うあッ! やっ! ああっ! ぁッ……ッ――!」  全身が強張り、白濁が何度も飛び散った。だがエルベルトは抽挿を緩めるどころか、より強く深くまで抉り、あまりの刺激に意識が飛びそうになる。 「――あっ! ……ッ、ぅあ、ああっ!」  身体の痙攣が止まらない。背後から抱き締められていることすら認識できず、崖から放り投げられたような浮遊感に囚われた。  落ちる……。  堕ちしてしまう……。  どこへ……。  涙が浮んだ目には何も映らず、頭の中は怖いほど空っぽだった。  この瞬間だけは匂いのことも、任務も、ランツのことさえ、抜け落ちていた。  身体の奥深くに放たれた熱と、自分を縛り付ける男の存在しか分からなかい。  それが心地いい、と胸の底から浮かんだ自分らしくもない思いを否定する余力はなかった。

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