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第二章 (1/5)
もう何日も秋雨が続いていた。
窓の外は昼でも暗く、時折ガラスに張り付く木の葉は濡れた土の色をしている。
薄闇に漂う霧は頭の中にも広がり、ルカは虚ろな目で外を眺めた。
あれからどれぐらいの時間が経ったのだろうか。
服を剥がされ、両手をベッドの脚に繋がれたまま、ヒートに侵され続けていた。
身体の震えに息が詰まる。
――まただ。
周期のように身体を苛む熱は引いては押し寄せ、襲う度に酷くなっている。あの夜以来、治まるどころかますます悪化した。まるで何かを求め、それを手に入れるまでは治まらないというように……。
「ん……っ」
身じろぎ、頬を床に押し当てるが、冷ややかな感触は一瞬で消える。雨に打たれたように汗で濡れる身体を丸め、長い息を吐いた。
なぜいきなりこんな変化が起きたのかは未だ分からないが、エルベルトが関係しているのは明らかだ。彼は何者なのか。アルファの中でも特別な存在なのか。それなら何かしらの情報があったはずだ……。
無駄だと知りながらそんな疑問を追いかけてしまう。牢屋に放り込まれていればまだ手の尽くしようもあったものの、エルベルトはルカを自室に監禁し、他には誰も入れない。情報源はエルベルトしかないというのに、同じ部屋にいるだけで思考能力を根こそぎ奪われる。その上、容赦のない尋問に追い詰められていた。
その責め苦を思い出すだけで身が竦む。
屈辱や嫌悪感だけならまだよかった。一番耐え難いのは高ぶる身体の奥に確かな悦びがあること。どんなに抗っても、どれほど理性にしがみ付いても、ヒートによる欲情に勝てないことをここ数日の間で嫌というほど思い知らされた。
あとどれほど耐えられるだろうか。
取り返しのつかないことをしてしまう前に逃げなければ。それが叶わないのなら、刺し違えてでもエルベルトを殺さないと、ランツの立場がない。
捕まってから何度も自分に言い聞かせてきたことをもう一度頭の中で繰り返していると扉が開く音がした。
「ッ!」
それが合図であるかのように熱が再び燃え上がる。
見なくてもエルベルトだと分かる。部屋の空気が一気に濃度を増して肌に纏わり付き、首を絞められているみたいに苦しい。
「う……んっ……」
ひりつく喉から呻きがこぼれる。
またあの地獄が始まるのかと思うと、吐き気が込み上げると同時に鼓動が期待に速まる。
暴走する欲をなんとか抑えようと、身体を小さくして目を閉じるが、力強く自信に満ちた足音が近付くにつれ背中を駆け上がる震えを止められない。
「苦しそうだな」
そう言うエルベルトの声にもさほど余裕はない。フェロモンに影響されているのは互いに同じだ。しかし一度ルカを犯して治まったのか、エルベルトは理性を完全に失くすことはあれ以来なかった。アルファとオメガの格差だろうか。それとも、それほどの意思の強さを持っているとでもいうのか。
「――ッ! やめろッ」
足首を掴まれて左右に大きく開かされた。
思わず目を開けると霞んだ視界の中に膝をついたエルベルトの姿と――自分の硬く勃ち上がったものがあった。
男が身に着けている皺一つない正装と、その前に晒される濡れた欲望のあまりにも酷い落差に眩暈がする。これ以上ないほどに顔が熱くなり、唇をきつく噛み締めた。
見たくもないのに、支配されているかのように目がそこへいく。腫れた根本には幅の広い紐が巻き付けられ、黒いそれはカリ首の下まで性器をきつく戒めていた。何度も外そうと試みたが、指の動きまで封じる手枷ではどうにもできなかった。
達することを許されないまま興奮の頂上まで追いやられ、治まったかと思うとまた再発し、気が遠くなるような時間をひたすら苦しめられる。
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