10 / 78
第二章 (3/5)
「……条件が、ある……」
絞り出した言葉にエルベルトは一瞬驚いた顔を見せたが、すぐに満足そうな笑みを口元に浮かべ、ルカを囲うように覆い被さってきた。
「言ってみろ」
ゆっくりと紡がれる言葉が温かい吐息として顔に触れ、薄暗い室内でも明るくなびく髪が視界を枠取る。まるで陽の光を浴びた雨の中にいるかのようで、蒼い眸が雲から覗く晴天に見えた。
それを綺麗だと思うのも、服越しに押し付けられる硬く膨らませたものを欲しいと思うのも、全てオメガとしての本能だ。自分の意志ではない。それを分かっていながらも、強力な流れに踏み留まるすべが見つからない。
「どうした。条件があるのだろう。聞いてやろう」
「全部、話す……だから――」
――ランツだけは……。
唇が触れそうな距離までエルベルトが顔を近付けた時、ルカは最後の力を振り絞ってその喉元へ喰らい付いた。
「ッ――!」
腕が縛られていなかったら――エルベルトが身を引くのが少しでも遅れていれば。
届いたはずの歯が空を切って虚しい音を立てる。
すかさず鳩尾を狙って蹴りを飛ばしたが、それも躱された。
鎖がけたたましく鳴り響き、手首に金属が食い込むのも構わず、ルカは怒り狂った声を上げて暴れた。
「ふざけるなッ! 誰がしゃべるか!」
エルベルト以上に自分に向けた罵声だった。本能と恐怖に負けそうになっている自分を奮い立たせよう必死に叫んだ。
そんな自分を見て楽しんでいるのか、エルベルトは笑いながら距離を取り、ソファーに手を伸ばした。
「まったく。油断も隙もないな。素直になったかと思えばこれだ」
「無駄なんだよ! さっさと殺せ!」
「生憎だがお前を殺すつもりも、これを無駄で終わらせるつもりもない」
エルベルトは変わらず落ち着いた様子で答え、ソファーから長い赤い布を取り上げた。
それを目にした途端、ルカは血の気が引いていくのを感じた。ここ数日であれに何度も苦しめられた記憶がまざまざとよみがえる。
「……来るなッ!」
死に物狂いで抵抗した。だがわずかな水しか与えられないままヒートと連日の責め苦に打ちひしがれ、体力など残っていなかった。いくらあがいても簡単に押さえ込まれ、長さのある布を膝の裏に通され、ベッドに固定される。
「やめろ! 放せっ!」
反対の脚も同じように縛られると、何回も取らされた屈辱的な恰好を強いられる。身体を折り曲げられ、中心と奥の濡れそぼった穴が晒される。
「身体は素直なものだな。ここは物欲しそうにしているぞ」
「ぁっ……!」
からかう声に罵声を浴びさせたかったが、濡れた音を立てて沈められる指に息が詰まる。初日の強引な結合で裂けなかったのは幸いだったが、連日の仕打ちに腫れて過敏になっているそこを弄られると、それだけで達しそうになる。
あの一度きりの繋がり以来、エルベルトは自身を挿入することはなかった。だがそれはルカが意識を飛ばすまで永遠に追い詰められることだと気付くのに長くは掛からなかった。
ともだちにシェアしよう!