12 / 78

第二章 (5/5)

 腰の奥は重く怠いまま、頭と心だけが雲のように軽く感じ、全てを手放したい気持ちに支配される。  そこにエルベルトの柔らかく滑らかな声が聞こえてきた。 「……誰に頼まれたんだ?」  ――誰に……? 何を……?  なんのことか考えているうちに子供の顔が瞼の裏に浮かんできた。  愛しい弟の姿だ。  ――ああ……。分かってるよ。  嗚咽混じりの呼吸を繰り返しながら力なく首を振った。  言えるわけがない。これだけは。死んでも。 「ここまでとはな……」  長い溜息が耳に届いた。 「んッ……!」  後孔から指を抜かれて唇をなぞられても、嫌がるほどの気力も体力も残っていない。細く身を震わせながら、焦点の合わない目でエルベルトの姿を捉えようとしたが、視界がぼやけて曖昧な輪郭しか見えなかった。なぜ彼を探してしまうのか考えることもできない。 「……お前、名前は?」  一瞬、何を言われたのか理解できなかった。  ――なまえ……?  なぜ名前なんて聞く。 「それぐらいは答えられるだろう」  答えられるのか? どこにでもある名前だ。ランツに結びつけられることはない。  しかし……。 「正直に言えたら、これを解いてやる」 「――あぁっ!」  張り詰めたままの欲望はありえないほど敏感になり、そっと撫でられるだけで耐えきれない涙がとめどなく溢れ出た。  ――もう無理だ。  もう抗えるだけの力がない。限界はとっくに超えていた。 「安心しろ、聞いているのは名前だけだ」 「……う、そ、だ、ぁっ」  そんなこと言って、一つ一つ、情報を引きずり出すつもりだ。 「嘘ではない。約束は守る」 「うッ、んっ! ぁあっ」  指をまた咥え込まされ、バラバラに蠢かされて入口の敏感な襞を掻き混ぜられる。しなった背中は張り詰めたまま戻らず、開きっぱなしの唇からは呑み込み切れない唾液が溢れる。 「あぁ、やぁっ、ぅ、うぅ」  やめてくれ、許してくれ。懇願したくてもできない。  みっともなく泣きじゃくるルカに優しく呼びかける声があった。 「お前をなんて呼べばいいのか、知りたいだけだ」  子供の頭を撫でるように亀頭を愛撫され、中の一番感じる場所を押し上げられる。またあの大波に呑まれる恐怖を前に、胸の奥で何かがはち切れる音がした。 「ああっ! はっ、ぁ……、ぅ……カぁ……ル、カ!」 「……ルカ?」  頷くこともできないほど乱れ狂っていると、もう一度呼ばれる。  名前を呼ばれるだけで快感が増幅し、腰を突き上げて浅ましくよがった。 「目を開けろ、ルカ」  言われるがままに閉じた覚えのない瞼を上げるが、止まらない涙で何も見えない。 「大丈夫だ」  まなじりに柔らかい温もりを感じる。それがエルベルトの唇だと気付いた時、中心をずっと戒めていた紐が緩められ、強烈な痺れに何もかもが飛んだ。 「――ッ、ッ……ッ!」  声にならない悲鳴を上げながら脳を焼かれるほどの快感を伴い、粗相をするように白濁が勢いなく先端から溢れ出た。気持ち良さと解放感と安堵に呑まれる中、ルカはようやく意識を手放した。  最後にまた名前を呼ばれたような気がしたが、ただの残響だったかもしれない。

ともだちにシェアしよう!