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第三章 (1/6)

 肩に沁みる寒さに目を覚ました。  重たい瞼を上げても焦点はなかなか結べず、覚醒しきらない意識の中でルカはぼんやりと木製の天板を見上げた。差し込む光の眩しさを遮ろうと腕を上げた拍子に虚ろな金属音が耳に届く。  それが手枷の音だと気付いた途端、記憶が一気に戻り、飛び起きようとした。 「ッ……!」  全身に痛みが走り、前のめりに蹲る。酷い眩暈と吐き気がした。口も喉も干からびていて、息を吸うだけでも痛い。  それでも状況を把握しようと瞬きを繰り返しながら顔を上げる。  真っ白なシーツに、暖かい布団。床ではなく、ベッドの上だ。  手枷の下には包帯が巻かれてある。傷めた手首を治療してくれたのだろうか。裸のままだったが、身体は綺麗に拭われている。  ――なんで、こんな丁寧に……。  事態が呑み込めず、呆然と宙を眺めた。  ヒートはようやく終わったのか、あの狂おしい熱はもうない。しかし残った倦怠感と疲労で身体を起こしているだけでも辛い。痛む頭を抱えて何も考えずに突っ伏したい衝動に流されそうだ。  そんな呑気なことをしていられない危機感が意識を繋ぎ止めた。  ――あいつは……エルベルトは……。  人の気配を探したが、誰もいない。  あれほど威圧的で陰湿に感じた部屋は窓から差し込む朝陽によって、優しくしとやかな空間に作り変えられている。隅々に至るまで優美に整えられ、床には塵一つ落ちていない。  ここで何日も泣き叫びながら快楽に溺れたのだと思うと、おぞましさと羞恥に眩暈が増した。  あれは結局、何だったのか……。  ――いや、それより。  無駄な考えを止め、本来の目的に意識を向けた。どこに転がされていようと、状況が変わっていないことは明らかだ。今度は手ではなく、片足に嵌められた拘束具から鎖でベッドの柱に繋げられている。寝台から降りることはできても数歩しか離れられないほどの長さだ。  足枷を壊す方法を考えるか。あるいは武器になりそうなものを探すか。  重い息を吐き、顔をしかめた。頭痛が酷くて考え一つまとめるのもままならない。  ――この状態だと、逃げられそうにもない、か。  認めてしまった途端、上体が力なく傾き、意に反して瞼が閉まりそうになる。

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