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第六章 (1/4)

 馬車の窓から見る街は昼下がりの日差しを浴びて明るく賑わっていた。  装飾の少ないローアンの街並みに比べ、ここは眩しいぐらい様々な色で溢れ返っている。建物の壁や屋根、ベランダを飾る花、人々の服装、店の窓に至るまで、どこを見ても華やかだ。 「寄りたい店があるなら遠慮なく言え」  隣に座るエルベルトが声を掛けてくる。  別に外を眺めているのは興味があるからではなく、二人だけの狭い空間に息が詰まりそうだからだ。離れようとしても右手は今日も枷で繋がれている。  あの動物庭園に出掛けた日から、エルベルトは毎日のようにルカを連れ出していた。陽当たりのいい部屋で軽食を用意させる時もあれば、ただ庭園を歩く時もあった。それ以外の時間をどこでどう過ごしているのかは分からない。いつも朝早くに出掛け、夜はルカが寝入った後にしか戻らない。  その間何をしているのか、誰と会っているのか、どんなふうに他の人と接しているのか、気付けばそんなことを考えている自分がもどかしかった。  エルベルトがどこで何をしていようと、自分には関係ないというのに。 「街には長らく潜伏していたのか?」  急に核心をついたことを問われ身を固くしたが、エルベルトは他意はないと言うように繋いだ手に軽く力を込めた。 「街の雰囲気をどう思ったか聞きたいだけだ」  ルカは眉をひそめ、視線を足元を落とした。 「自分の国だろう」 「自分の国だからこそ、なかなか見えないものがある」  どこか憂いを感じる声が返ってくる。  その理由を考えながらルカは記憶を辿った。  あまりにも多くのことがあり過ぎて忘れかけていたが、ヒートが始まるまでの数日は確かに潜伏していた。だがランツの部下が用意した部屋からは一歩も出なかったため街の雰囲気なんて聞かれても分からない。  ただ路地裏に面した窓から聞こえてきた街の音は賑やかだったのを覚えている。そしてわけありの旅人だと察したらしい宿主が頼んでもいないのに食事をいつも扉の前に置いてくれていた。 「……平和」  その一言に尽きる。  あの宿主にしても、ソフィアにしても、動物庭園で見た人々もそうだ。人を疑うことを知らず、戦争や飢えも知らない。平和に慣れきった穏やかで明るい国だ。 「そうか、それは喜ばしい感想だ」  誰が見てもそう思うだろうに、エルベルトは心から安心したように笑う。 「街の雰囲気ぐらい、部下に聞けばいいだろう」 「お前は私を気遣ったりしないと思ってな」 「どういう意味だ?」  だがエルベルトが答える前に馬車が大きく揺れて止まった。  着いたな、とエルベルトが窓の外を覗く。

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