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第六章 (3/4)

「どうした、ルカ?」  水を眺めたまま立ち尽くしている自分にエルベルトが声を掛ける。 「別に。それより、なんでこんなところに……? 茶なら宮殿で飲めばいいだろう」 「宮殿にあるのは全て私好みの茶だからな。お前の好みのものを選びにきた。ここには世界中の茶葉が揃っている。好きなものを選ぶといい」  また、それか。 「俺の好みなんてどうでも――」  そう言いかけた時、いきなり手を引かれてバランスを崩した。何をされているのか理解する前に力強い腕に捕らわれ、ソファーに腰を下ろしたエルベルトの膝の上に強引に座らされていた。 「なッ、離せ!」  アメリーや使用人たちは一旦下がったにせよ、護衛の二人はテラスのドアの両脇に立っている。一人は素知らぬ顔をしていたが、以前も激しく異議を唱えたマルクは眉間に深く皺を刻み川を睨んでいた。二人とも見えていないわけがない。 「何、考えてんだッ」  自分の部下の前でこんな……!  ルカは恥ずかしさのあまりに顔を熱くして必死にもがいたが、エルベルトが左手を腰に回すと必然的に枷で繋がれたルカの右腕が後ろ手に押さえられる。自由な左手もあっさり捕えられ、抵抗を封じられた。 「自分がどうでもいいなどと言った罰だ。お前はもっと自分を大切にできないのか」  本気とも冗談ともつかない口調でエルベルトが言う。 「そんな価値……ッ」  俺にはないと言おうとしたが、それも許さないと言わんばかりにエルベルトが首筋に顔を埋めた。舌先で肌を濡らされ、声が裏返りそうになる。小さな震えが背筋を駆け上り、人に見られていると思うと羞恥で気がおかしくなりそうだ。 「やめろッ」  頼むからと懇願しそうになった時、ワゴンの音が近付いてエルベルトが離れた。だが膝からは降ろしてもらえず、ルカはうるさく響く鼓動と火照る頬を持て余す。  戻ってきたアメリーのわけ知り顔を避けようと結局はエルベルトの腕の中で隠れるような姿勢になってしまう。  するとこれ幸いとばかりに抱き寄せられ、もうどうしようもなかった。 「陛下のそんなお顔を拝見するのは久しぶりですわ」  アメリーがクスクスと笑う。  どんな顔なのか気になったが、身体に伝わるエルベルトの肩の揺れからしてろくな表情ではなさそうだ。  腹立たしい。だがそれ以上の怒りは感じなかった。  なんの関係のないアメリーがいるからだろうか。  それとも殺したくないと自覚したエルベルトに対してもう殺意は沸かないのか。 「さて、どのお茶になさいますか?」  そんなことを考える暇も与えられずアメリーが尋ねてくる。  使用人が押してきたワゴンは五つ。それらに並べられた茶葉やハーブ、乾燥フルーツの種類の多さに驚いた。ローアンで見る茶の種類なんてせいぜい片手で数えられるほどだ。それがこんなに。 「お前がいいと思うものをいくつか出してくれ」 「かしこまりました」  ルカが返事をせずにいるとエルベルトが勝手にことを進めた。

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