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第七章 (3/3)
ルカは信じられない提案を口にする男を凝視した。
「……そんなことしたら……」
「ただでは済まないだろうな」
なんなんだ、この国は。ソフィアもマルクもなぜ自ら国王の怒りを買うような真似をする。
「陛下は本気だ。本気で貴様を想って、心を開いてくれるのを待っておられる」
搔き乱される。一番聞きたくない言葉だ。
たとえ身体でそれを分かっていたとしても。本能で感じ取っていたとしても。
それに触れては駄目だった。
「……知ったことか」
一瞬マルクは残念そうな表情を浮かべたが、見間違いかと思うほどすぐに消えた。
「やはりな。貴様さえいなくなれば陛下も冷静になられる。無意味に国を賭けることも、愚かな王として歴史に罵られることもない。そのためなら俺の地位でも命でも、何でも差し出してやる」
エルベルトのためか。硬い声と揺るぎない眸から、彼がどれほど国を愛し、エルベルトを深く敬愛しているのかが伝わってくる。だからこんな真似ができる。
「誓え。二度と陛下の前に現れないと」
ここから逃げられる。この苦しみから。
ルカは手元に視線を落とし、そこに嵌められた枷と包帯を眺めた。エルベルトはあれから毎朝、包帯を取り変え、軟膏を塗っていた。その指先の温もりが今も肌に残っているように感じる。
マルクの提案を受け入れたら二度とあの安らぎに包まれることはないだろう。
――その代わり、殺さなくて済む。
――そしたらランツはどうなる。
相反する二つの思いに勝ったのは弟だ。
逃げたところでなんの意味もない。エルベルトを殺さない限りランツの未来はない。
――殺すしかない……殺すしか……。
吐き気にも似た胃の奥の痛みをこらえ、ルカは口元に歪んだ弧を描いた。
「俺があいつを惑わせてる? 好都合だ。このまま破滅に追い込んでやるよ」
それが嫌なら殺せ。
そう目で挑発した。
人を射殺せるほどきつく睨まれたが、マルクは悪態を吐き捨てるだけで何もせず踵を返した。
馬鹿だな、と荒々しく部屋を出て行く姿を見ながら内心呟いた。この国の人はどうして誰も直接的な解決法を選ばないのだろう。
話し合いで解決できることが本当にあるのか。
殺しも暴力も嫌いだが、それ以外のすべを知らないルカにとって、その答えは分からなかった。
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