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夏SS (1/7)
耳鳴りがするほどの大きな歓声が、街の中央広場から湧き上がった。
夏至の夕暮れ。一年で最も遅い時間に沈む太陽は街に影を落とし、壮麗な市庁舎の高いバルコニーだけを照らしていた。
そこにはフェルシュタイン国王、エルベルトの姿がある。
暦の祝いに加え、今日は国王の誕生日でもあった。国中から集まった民からの拍手と歓声にエルベルトは手を掲げて応えている。
その姿をルカは少し下がった位置から見守っていた。正装に包まれた背中は真っ直ぐ堂々としていて、やはり誰よりもこの場に立つにふさわしい。
そう思って見惚れていると、エルベルトが振り向いた。
「何をしている、ルカ。お前も来い」
「いや、俺は……」
歯切れの悪い答えにエルベルトは呆れたように溜息を吐く。
「お前の誕生日も今日だろう」
その言葉がどうもこそばゆくて、ルカは視線を逸らした。
それもそのはずだ。ついひと月ほど前に、急に決められたのだから……。
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