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第2話:さよならまでのcount down 9
柚葉と付き合うようになったのは、大学に入学してまだ間もない頃だった。遡る事、3年前。
「…………」
大学受験も終え、めでたくして第一志望校に合格。晴れて大学生になれたけど、自分の性格は自分が一番判っている。
「向葵? 大丈夫?」
「ん? んー……。緊張する」
都希も同じ大学を受験して、一緒に合格できた。お陰で同じ大学の同じ学部に、通うことが可能になる。入学式も終えて、本日は初講義の日。俺は緊張でキャンパスのカフェテラスから、その椅子に座り動けずにいた。
「初講義だからって、そんなに緊張しなくても」
「緊張するのは緊張するんだ!」
「判った、判った」
自分は極度に人見知りをするから、大学に入学しても、同じ生徒に話し掛けられる事はあるけど、どうも会話を続ける事が出来なかった。そんな俺の性格を判ってくれている都希は、俺が動けるまで、こうやって傍で待ってくれている。
「あぁー、でも、本当、都希と同じ大学入れて良かったあー」
「なにそれ」
「だって、慣れるまで一人で居なきゃいけないって事ないし!」
中学からの付き合いだから、都希には、何でも気を許して話事が出来る。そんな都希と一緒に通えるとなると、凄く心強い。
「向葵なら、すぐに友達出来そうだけどな」
「信用出来るのは、都希しか居ないし」
「はいはい」
俺がそう漏らすと、都希は苦笑いをしてみせながらも、俺の頭を何度か軽く叩いてきていた。都希に頼り過ぎなのも、判っているんだけど、どうしても頼ってしまう。
-1-
それでもやっぱり、全てが都希と同じ講義のスケジュールではないから、俺が一人大学のキャンパスに向かう事もある。
キャンパス内にある、校舎と校舎の通り道。人通りが結構ある、キャンパス内一番の大通り。その通りを使えばどの校舎棟にでも、行けるようになっている。俺は講義を受ける為、その通りを足早に歩いてると、見知った事もない、一人の生徒に声を掛けられて足を止められた。
「楠木 向葵さん! 好きです、付き合って下さい!」
「……え?」
突然の事で、思考が付いていかないのが、正直な話。大通りだから、他の生徒達は講義へと向かう為、足早に通り過ぎていく。こんな状況の俺達へと、足を止める者もいた。
「好きです」
「いや、あの、ごめんなさい」
「なんでですか!?」
再度言われて俺は我に返り、決まりきった断りの台詞を述べると、彼は驚いた表情を浮かべ問い掛けてくる。
「ええ? だって、俺、君の事知らないし」
「高屋 柚葉です。工学部で同じ一年です」
彼は俺に近付き、両手を握ってくる。近付いた事で判る、彼との身長差。同じ一年だとは思えないくらい、彼の容姿は大人びていた。
「えっと……高屋くん? 俺も高屋くんも男だし」
「そんなの関係ないです、俺は向葵さんが好きなので」
「ええええ……、でも」
なんだろう……、凄く強引というか、握られた手は力強く繋がれている。離すものかという、彼の意志がこちらにも注がれてくる。
「断りなら返事はいりません」
「…………」
「OKしか聞きません」
「なら、保留で」
断る事は許されない、だからと言って“判りました”といって、付き合う事も出来ない。だったら、こう答えるしか、俺には出来ないじゃないか……。
-2-
「保留……、あっ! ならユーロピアランドに行きませんか?」
「え!?」
「知り合いにチケット二枚貰ったんですよ」
ユーロピアランドと言えば、最近出来た大きな娯楽施設。遊園地とか、ショッピングモールとか、映画館とか、ゲームセンターとか、ありとあらゆる娯楽の施設が融合されている……と聞く。噂では聞いていたが、行った事はまだない。
「い、行きたい……!」
「向葵さん、こういうトコ好きですもんね」
俺の反応を見てか、彼の瞳は目元を緩め愛しげに俺を見てくる。その瞳から、彼の愛情が伝わってくる。
「う、うん。好き」
「一緒に行きましょう?」
行きたいけど、一緒に行くっていうのは、気持ちがないのに、彼に申し訳なくなる。だって、彼から伝わってくる情は、真剣そのもので、ユーロピアランドに行きたいだけの、この俺の不純な気持ちでは一緒に行くのは躊躇ってしまう。
「……えっと、そのチケットだけくれたりって事はないよね?」
「それ、俺に対して、あまりにも酷くないですか?」
「……だよね」
もちろんのこと、こんな妥協策に彼が乗ってくれるはずもない。
「行くなら、付き合ってくれるって事になりますからね」
「え!? な、なんで!」
「だってこれ、ツーデイパスポートですよ、泊まり掛けです」
彼は満面な笑みを浮かべると、そうはっきりと言い切ってきた。行くだけならという、俺の打開策は先に打ち砕かれる事になる。
講義へと向かう生徒の中、新緑の葉だけが、数枚静かに俺の前へと立ちはだかっていた。
-3-
「あははははー」
「笑い事じゃないよ」
講義の時間に合わせて、後から来た都希とキャンパスのカフェテラスで先程の出来事を、事細かに説明をすると、都希に盛大に笑われた。
「ごめっ! だって! 向葵、そんな告白されたの初めてじゃないか?」
「うん、初めて」
だいたい、告白されたら、断って、判りましたと言われそれで全ては終わる。たまに二回とか三回とか告白してくる子も居たけど、それ以上ということはなかった。ましてや、ユーロピアランドで釣ってくるような相手なんて、今だかつて遭遇した事はない。
「向葵、しょっちゅう告白されてるけど……、諦めないとかすっごい向葵の事好きなんだな」
そんなことないけど……、告白してくる相手の7割が、男だという事実を忘れてはいけない。同性に、好かれてしまう体質なのかもしれない。
この状況が面白いのか、涙目になりながら告げてくる都希に、俺は流すように目線を向けてしまっていた。
「やっぱり、向葵さんモテますよね……、しょっちゅうなんだ……」
「うっわ!? びっくりしたー」
都希へと目線を向けていると、突如背後から聞こえてきた声に、俺は驚き肩を一瞬震わせてしまった。振り向くとそこには、今噂をしていた彼本人の姿があった。
「あ、噂の?」
「始めまして、高屋 柚葉です」
それに反応した都希が口を開くと、彼はそのまま、俺達が座っているテーブルの椅子へと一礼をしてから座る。
「あ、どうも、向葵の友達の坂田 都希です」
「いつも一緒に居るから、デキてるのかと思ってたんですけど、友達で間違いないんですよね」
俺はそんな二人の会話を、アイスコーヒーのストローに口を付け、ただ二人を交互に見ながら聞いていた。
「間違いないって……、なんの確認だよ」
「だって、俺保留にされてるの、俺の事知らないって理由ですよ? 都希さんが、向葵さんの事好きだったら、勝ち目ないじゃないですか」
「なんか……、もう煩い」
知らぬ存ぜんで居ようかと思ったけど、止めておかないと、なんか会話が在らぬところにいきそうな気がしてならなかった。
-4-
「考えておいて」
「え? あ、あの!」
大学にも通い慣れて、3ヶ月が経った。
「断ったらいいのに」
「なんで、そんなこと柚葉に言われなきゃなんないの?」
相変わらず、柚葉は俺の側にいた。もちろん、告白の返事はさせてもらえないままで、時間だけが過ぎていっていた。さっき、サークルの先輩に告白を受け、受けというか、一方的に言われて逃げられたけど。その場面を、柚葉は見ていたらしい……。
「だって、俺は直ぐに断ったのに……、そいつはなんで返事しないんだよ」
「断ろうとしたら、行っちゃっただけだよ」
「断ろうと……、思ってんのか?」
いつものカフェテラスで、都希を待っていると、当たり前かのように柚葉もそこに現れる。こうやって、一緒にコーヒーを飲んで空き時間を過ごすのも、当たり前になってきていた。
「うん、話したこともない人だったし」
「そ、そっか……」
俺がそう言うと、柚葉は目線を泳がせて言葉を漏らしていた。
「なに?」
「俺はいつ返事くれるのかなって思って」
「何回も断ってるじゃん」
恋人になりたい、付き合いたいとこの3ヶ月、ずっと柚葉に言われ続けてきた。でも、柚葉の気持ちが本気なだけ、俺は安易に答えを出す事が出来なかった。
「そういう返事は聞かない」
「すぐ、そう言うじゃん」
「だって……、向葵が好きだから、嫌なんだよ」
アイスコーヒーのグラスに手を添えていると、柚葉はその手に自身の手を重ねてきた。柚葉の手から伝わる温もりに、何度かこう手を握られることが増えてきて、その温もりは俺を心地好い気持ちにさせてくれる。
「でも……」
「話するようになったから、少しは前進してると思ったのにな……、じゃ、俺、次講義だから行くな?」
それでも、煮え切らない自身の気持ち。曖昧に返答してしまうと、柚葉はその手を離した。
「あ、うん」
「じゃあな」
俺が言葉を返すと、柚葉は振り向きもせずに、軽く右手を上げて言い告げ、カフェテラスを出ていった。
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あれから数日、柚葉はパタリと俺の前に姿を見せなくなった。
「あれ? 今日は柚葉くん付きまとってないんだな」
「付きまとうって……」
「毎日、飽きもせずに好き好き言いに来てるしなー」
カフェテラスに居れば、待ってなくても柚葉は毎日会いに来てくれていた。それが当たり前の日常になってただけに、パタリと来なくなるとそこへ気が注がれる。
「最近は……、そんなことないよ、会いにも来なくなった」
「……寂しいの?」
「え? ええ?」
都希は俺の顔を覗き込むと、微笑みながらそう問い掛けてくる。都希の言葉が耳に入ると、俺は目を見開いてしまった。
……寂しい? 俺、寂しいの?
「会いに来てくれなくなると、寂しいんだ」
「…………」
「寂しいって顔に書いてあるけど?」
都希に言われて、俯いてしまった。柚葉から向けられてくるまっすぐな愛情に、心地良いと感じていた事。側に居てくれる事で、安堵を感じていた事。それが無くなったら、寂しいって感じている事。
「ん、だって、もう来なくなった」
「もう、好きになってるんじゃない?」
都希は俯きながら言う俺に、前髪を梳くように指に絡ませ、前髪を上げさせられる。
「うん……」
俺は都希の問い掛けに、俯いたままで頷き答えていた。
「連絡……、してみたら?」
「ん」
いつの間にか、俺。柚葉が好きになってた。
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柚葉に連絡してみよう……かな。
帰宅後、夕食を済ませて自室の部屋へと閉じこもる。ベッドに正座をして、毛布の上に置いてあるスマホに目線を落としていた。
柚葉の連絡先なんて、告白された当初に強引とも云える勢いで、交換をしている。交換しても、柚葉から連絡が来る事も、俺から連絡する事もなかった。
人差し指でベッドの上に置かれているスマホの画面を、人差し指1本で一つ一つ操作をしていく。電話帳のアプリを起動させ、今まで使うことのなかった柚葉のプロフィール画面を開く。
携帯番号しか交換してないから、柚葉のページは番号だけが登録されていて、画面は全体的に白かった。
「んーー……、やっぱダメだー」
発信ボタンを押そうとしたが、勇気が出ない。俺はそのまま、ベッドへと横になった。
「……もう、遅かったかな」
スマホを手にして、仰向けになる。仰向けになりながら、視界に映るスマホには、高屋 柚葉の文字。
「でも……」
柚葉はあんな堂々と、俺に好きだと告白してきた。俺と話した事もないのに、断られるって判ってたはずなのに、あんなに堂々とはっきりと好きだと言った。
俺も勇気を出そう。
身体をもう一度起きあがらせて、俺は柚葉へと電話を掛ける。耳元で鳴り告げるコール音を聞きながら、胸は煩いほど高鳴っていた。
「え? もしもし? あ、向葵?」
数回のコール音の後、耳に届いたのは、数日振りの柚葉の戸惑った声だった。
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「えっと……、元気?」
「う、うん。元気だけど、どうした?」
柚葉に会わなくなってから、数日しか経ってないというのに、柚葉の声を聞くと、俺の心は安堵を覚える。
「いや、あの……、最近、柚葉見なくなったなって思って……」
「……あぁ、ちょっとしばらく大学行ってなかったから」
「え!? な、なんで? 体調……、悪いの?」
「……そういうわけじゃないけど……」
会いにきてくれなくなったのは、大学にすら来てなかったからだったんだ。ただ、問い掛けた俺の質問には、柚葉は答えを濁すように返される。
「じゃ、なんで?」
「向葵……、本当に判んないのか?」
「…………俺の事避けてるから」
俺もそこまで鈍いわけじゃない、大学にすら行かないで、俺と会う事を避けていたんだ。煮え切らない柚葉の返答と声音で、俺の心には不安が過る。
「判ってるじゃん」
「…………」
俺が言うと、柚葉の返答で不安は決定的なものへと変わる。その言葉に、視界が揺れるのに気付いた。ベッドの上で正座したまま、俺の視界は毛布の模様を、歪んで写し出している。
「向葵?」
「んっ」
しばらく、言葉が出ずに無言で居ると、柚葉に呼び掛けられて、咄嗟に短く返事をした。
「え? な、なに? 向葵、泣いてるのか?」
「……んーん」
「泣いてるじゃん、今どこ? 直ぐ行くから」
泣いてる事を悟られないように、短く返事を返していたが、柚葉には気付かれてしまった。
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俺は実家住まいだから、夜中に実家に呼ぶわけにも行かず、近所の公園へと待ち合わせすることにした。一度言い出したら聞かない、こういう時の柚葉は強引で、大丈夫だと何度も答えたけれど、都希に家を聞いて家に行くとまで言われてしまったら、こうするしかなかった。
今の状況が判ってる都希は、俺の家を簡単に教えそうだし。
「なんで、泣いてたの?」
「……泣いてないよ」
公園のベンチに座り、柚葉の問い掛けに平常心を装い答える。
「目……赤いよ」
「え!? うそ!」
名一杯笑顔で答えたつもりだったけど、泣いてしまった目の奥までは隠す事が出来なかった。顔洗って誤魔化したりもしたのに、それは無意味なものだった。
「なんかあったのか?」
「…………」
「話くらいなら、聞くけど?」
俺の目元を指で拭い、優しく微笑み掛けてくる柚葉。偽りのないこの柚葉の笑顔に、俺はこの時癒されてたんだ。
「なんで……、俺の事避けたの?」
「え?」
「…………」
俺がそう問い掛けると、柚葉は目を瞬いて驚きの表情を浮かべる。その答えが聞きたくて、柚葉の目を見ていると、柚葉は夜空へと目線を変えていた。
「向葵って、結構、酷だな」
「……え?」
夜空を見上げたままで、柚葉は言葉を続ける。俺はそんな柚葉の横顔から、目が離せないでいた。
「俺、向葵が好きだって言ったじゃん?」
「ん、うん」
「でも……」
落ち着いたように、俺に言い聞かせるように言葉を繋げていた柚葉は、最後言葉を漏らすと、表情を歪ませていた。
-9-
「元々、向葵は同性だめなんだなって、悟ったんだよ」
「え?」
柚葉が話し出したのは、俺への深い愛情だった。いつまでも、答えを出せないでいた、俺への不安だった。
「それだったら、どんなに好きだって言っても、振り向いてくれないんだろうなーって思って」
いつまでも煮え切らない俺の態度に、柚葉は俺を避けて諦めようとしていたんだ。それは、言い聞かせてくれている柚葉の表情から、俺へと伝わってきていた。夜空を見上げる柚葉の瞳は、少し憂いて滴に揺れていた。
「…………」
「でも向葵と話してたら、諦める事なんて出来ないし……、話すようになって、もっと好きになってたし」
柚葉の表情から感じとった、諦めようとしているという予感は、的中していて、その言葉をはっきりと耳にする。
「…………諦めるの?」
俺から離れていこうとしている柚葉の想い。それを掴もうと、俺は無意識に柚葉の腕を掴んでしまっていた。
「いつまでも、好きだって付きまとってても、迷惑掛けるしな」
その手を柚葉は自身の手を重ねて、腕から離されてしまった。
どんなに柚葉に好きだと言われても、断る事しかしてこなかった俺に、柚葉はもう愛想を尽かしたのだろうか……。腕を離したように、柚葉の気持ちも離れてしまっているのだろうか……。
自分の感情に気付くには、もう、遅かった?
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「あ、あのさ」
「ん?」
断られると思っていても、伝えてきた柚葉。今、泣いてる場合じゃない、断られても、もう遅かったとしても、それでもいい。
自分の気持ちを伝えてから泣こう。
「最初の……」
「最初?」
俺が途中まで言葉を漏らすと、柚葉は夜空に向けていた視界を俺へと変えてくる。俺は柚葉みたいに真っ直ぐ目を見て言えないけど、はっきりと言うにはまだ勇気が足りないけど、伝えたい気持ちは負けない。
柚葉と目線が合い、俺は咄嗟に俯いてしまった。自身の両手を互いに握り合わせて、緊張で震えてしまうのを抑えていた。
「あれって、まだ、有効?」
「……あれ?」
「だから……、連れて行ってくれるってやつ」
緊張して、曖昧にしか言えなくて、柚葉に伝える事が出来ない。
「……ん?」
「ユーロピアランド!!! 一緒に行こうって誘ってくれたじゃん!」
「え? 行きたい……のか?」
柚葉の表情から柚葉の気持ちが伝わってしまうから、俺は柚葉の顔を見れずに俯き、握り締めている自身の両手に目線を落とす。
「……うん」
「でも、あれって、泊まりだぞ?」
「うん、いい」
俺が頷き答えると、柚葉の手が俯いている俺の頬へと触れる。そのまま柚葉は俺の顔を、向き合わせる為、柚葉の方へと動かされた。
「……それって、俺が付けた条件も含んでって事?」
「うん」
やっぱり、柚葉には敵わない。柚葉は俺の目をまっすぐに見て、そう問い掛けてきた。俺は目線を泳がせて短く返事を返すだけで、精一杯だった。
-11-
「ええええええーーーー!?!!??!」
俺が返事を返すと、しばらく柚葉はじっと俺の目を見てきて、その後何度と瞬かせていた。瞬かせたかと思ったら、急に声を出して驚いていた。その声は、夜中の静かな公園に響いていた。
「な、なんで、そんな驚くの!?」
「だって……、今、諦めようとしてたのに……、そんな、え? お、俺でいいのか?」
再度、確認するように問い掛けてきた柚葉の態度は、すごく挙動不審で、なんだかそれがすごく可愛く見えたと同時に、自分への愛情を感じた。
「……うん、恥ずかしいから、何回も言わせないでよ」
まっすぐに向けてくれる、柚葉の屈託もない愛情が、俺を心地好い気持ちにさせてくれる。それに俺は、自身の愛情で答えたかった。
「あ、ありがとうございます、一生大切にします」
「大袈裟……」
この一年後、柚葉は浮気をする事になる。柚葉から受ける愛情が無くなったとは、感じないだけに、柚葉から俺は離れる事が出来なかった。
柚葉から愛情を注がれる度に、柚葉から離れられなくて、浮気をされる度に、胸は締め付けられて。柚葉から離れられないから、柚葉を信じたいのに、嫉妬でドロドロになっていく自分の感情が醜くて、辛くて、楽になりたいのに……。それでも、俺は柚葉を好きで居たいんだ。
大切にするって言ってたのにな……。なんで、こうなったんだろう……。
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