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第14話
街から夏の気配はひっそりと姿を消した。構内だけはまだ夏休みの名残を引きずって賑わいでいた。学園祭シーズンが到来するせいもある。
バイトと調理学校が忙しいおかげで、サークルに入っていない大輝はひとり、ラウンジで課題と取っ組み合いをしていた。そこへふらふらと相方不在の律がやってきた。少し経ってから智也も同じテーブルについた。何やら上機嫌で薄気味が悪い。
「俺ね、彼女できたの」
智也は満面の笑みで報告した。顔の肉が全部落ちてしまいそうだ。三ヶ月に一回ぐらいのペースで彼女が変わる智也に「はいはい」と適当な返事をした。律も興味なさそうに相槌を打っている。
「大輝くん、昴流の実家行ってきたんでしょ」
「キミのせいでね」
「まあ、結果オーライでしょ」
さも当然、とすまし顔だ。大輝は苦笑いしてパソコンに目を戻した。
昴流は友達をやめない、とは言っていたから大輝は口を出さないことにしている。それでもやっぱりもやもやする。友達売ってんじゃねえよ、と言いかけて飲み込んだ。
「あんなに仲悪かったのにね」
夏休み前を思い出した智也がしみじみと呟いた。
律の突き刺さるような視線を感じて小さくなった。智也にはまだ昴流と付き合っていることは言っていない。
「まだヤってないの?」
「……へ?」
素っ頓狂な声をあげたのは智也だ。
「律くん、いい加減にしてくれない? 俺と昴流のことは関係ないだろ」
「野次馬は黙ってまーす」
「大輝、ヤったって何を……? 何の話……?」
「……ごめん、知ってると思ってた」
「知ってんのは律くんだけだよ……」
律は申し訳なさそうに平伏した。
「俺と昴流ちゃん、付き合ってんの」
「えっ! いつの間に!」
「夏休み中に」
「それは! おめでとう!」
思いがけず祝福され、思わずしかめっ面になった。
「さんきゅ……」
「好きな子いじめちゃう小学生みたいだったもんね。落ち着くとこに落ち着いてよかったよ」
「はは……」
付き合っているとはいえ、昴流の実家から帰ってきてからまだ一度しか会っていない。大輝が忙しくて時間をとれなかったのと、昴流と会うとくたくたになってしまうから。
主に性欲絡みの方で。
まだ最後までは至っていないが、健全な若人、性欲が尽きない。出しても出してもずっと気持ちいいことがしたくて、夜通し触り合っている。この前なんて、ふたりとも馬鹿になったみたいに朝まで快楽を貪っていた。初めて射精に至らない快感を知った。
癖になりそうで危うい行為。このままでは学業に支障をきたす、と会うのを控えるようになった。えっちのしすぎで単位を落としたらどうしようもない。
ただ、あの揺蕩うような快楽を思い出してはむらむらしている。
むらむらしているうちに二学期は始まるし、今度は昴流がサークルで忙しくなった。
「昴流くんって、サークル入ってるんだっけ」
「そうそう、軽音楽部な」
「それは意外!」
曰く、高校生の時に暇すぎて父親のギターで遊んでいたという。
一年生の時に暇つぶしで音楽室で遊んでいたら、軽音学部の先輩に掴まってずるずると。
昴流ちゃん、どんだけ暇を持て余してるんだよ、とちょっとだけ羨ましい気持ちになった。忙しくしているのは自分の事情なのだが。
「ふたりとも忙しいもんね。えっちしてる暇なんてないか」
「智也っ!」
小声で叱ると、てへ、と舌を出して誤魔化された。
下腹部が疼く。
ぎらりと光る白い街灯の下を歩きながら、大輝はもやっとしていた。端的に言って昴流とえっちがしたい。最後までしなくても、夜通し触り合いっこして、太腿の間に昴流の熱くて硬いものを挟んで、擦って。
今すぐ昴流の家に向かいたい。まろひこを口実に乗り込んだらさすがに怒るだろうか。昴流は一度懐に入れた生き物に甘いから、眠そうに笑って迎え入れてくれそうだ。
そういえば、昴流がまろひこを飼うと言い出した時も、昴流に会う口実ができると大喜びした。夢かもしれないと猫の飼い方を確認してしたら、怪訝な目で見られた。
その後すぐに気まずくなって、仲良くなって。
えろいことする仲になるなんて。
初めてラブホに行った時のことを思い出して、スキニーの中で股間がぎゅっと硬くなる。ちょっと乱暴にベッドに転がされたのはやばかった。見上げた昴流が苛立っているのにエロい顔してて。
歩きづらいから妄想をやめたいのに、若い脳みそはひたすら甘くて、まだ知らないえろいことを延々と吐き出している。
ちょっと前屈みで、柄の悪さを演じながら家に着いた。
家族はみんな寝静まっている。
ドラックストアで買ってきた浣腸を手にトイレに籠り、菊座にあてがった。この瞬間が何より緊張する。これから乗り越えなきゃいけない便意と、その先を期待して。
手持ち無沙汰で、メッセージを適当に返しているうちに腹の中がぐるぐると騒がしくなる。
この作業も手慣れたものだ。内側を綺麗にするまでたいして時間がかからなくなった。
さくっとシャワーを浴びて、部屋に戻る。
ベッドの下の収納ケースを開き、ごそごそとバイブとローションを手に取った。このバイブにもずいぶんお世話になっているが、いまだにどきどきする。
忙しいとはいえ、大輝も男だ。黙って食われるのを待っているのもおかしな話なので、毎日のむらむらを解消するためにも、お尻の準備はしている。
昴流とえっちなことができれば満足だ。昴流に挿入れたい、と強く思っているわけでもなかった。ただ、抜きあいをする時に昴流に尻のあたりを触られて、興奮した。ものすごく。「お尻の準備しよう」と心に決めて、今ではすっかりアナニストだ。
バスタオルOK。ローションの容量も十分だ。
ベッドにごろりと横になり、ローションを腹の上に出しながら今更ながらに思った。
尻が緩いと思われたらどうしよう。初めてなのに。浮気を疑われてしまうだろうか。
浮気する暇なんてないのだが、こうして自慰に励む時間はできる。俺に会えないのに自慰はしてたわけ? と昴流に言われそうだ。
怒られちゃうかな。
会陰をぬるぬるにしながらアナルにそっと触れた。つぷ、と中指の第一関節を埋めると、中の肉がきゅぅ、と締めつける。
絶対ここに挿入れたらきもちがいい。
昴流に挿入れてもらえる日を想像しながら、ゆっくりゆっくり中を解していく。大輝の腸内は受け入れることを着々と覚えていた。
だってきもちよくなってほしい。
それに、昴流は経験豊富だから、女の子と比べられたらひとたまりもない。だって、どう考えても女の子の方がやわらかくて、ふわふわしてて。
泣きそうになりながら、ぷっくり膨れた前立腺に指を添えた。じんわりと快感が身体中に広がって、手足が痺れる。快感を享受したうちがわは、ふんわりと柔らかくなる。まさに媚肉と呼ぶに相応しい。勃ちあがっているものをやんわり撫でた。 昴流だって男は初めてのはずなのに、大輝を責め立てる手つきは的確だ。なんで、と涙声でたずねたら『妄想したから』と囁かれて甘イキした。まじめくさった顔でエロいことしてくるのがたまらない。
「すばるちゃ……ぅ……」
ローションでぬめる中を擦り、二本目の指を入れたところで甘い声がまろびでる。正気で聞いてたらドン引きしてしまうような甘さ。
家族にバレるのはなんとしても避けたい。唇を噛んで声を我慢する。すかさず妄想の中の昴流に唇をなぞられ、指が入ってくる。昴流に声を聞かせろと言われたら、たぶん恥じらいもなく喘ぐ自信がある。自分がちょっとマゾが入ってるとは知らなかった。でも昴流にやらしいことたくさんして欲しいし、されたい。
三本目が慣れてくると、指をバイブに変えた。指で届かなかったところまで、ぬるぬると押し込んでいく。元気な昴流のものとだいたい同じ大きさ。指でこっそり測っていたことを本人はきっと知らないだろう。
出し入れして、濃い先走りを撫でつけているうちに頭の中が真っ白になって、気がついたら射精している。
前立腺も開発済み、ほとんど中でイくこともできるのに。
まだ処女なのに。
快楽を引きずっている吐息を枕に吸わせ、なんとなく胸の飾りに触れてみる。ここも、触っていたら気持ち良くなるらしい。昴流はねちっこいし、すけべだから「男も乳首感じるらしいよ」と弄ってくれそうだ。
またむらむらしてきた。若さのせいだ。元気になったそれを扱いてもう一度吐き出した。
そうだ、昴流の筆下ろししてやろう。
昴流も男は初めてだろうし。
あらゆる疲労がいっぺんに押し寄せてくる。のろのろとバイブを引き抜いた。後片付けをしなければ、明日死ぬのは自分だ。ローションも乾くし、腹も冷やす。せめてパンツぐらいは、と手を伸ばして、意識が落ちた。
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