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第7話 約束は守ってくれ 2
「もう、いいですよ」
許可が下りて、もう一回掴む。
がちがちに強張っていて、ゴム越しでも血管の膨らみがわかるほどになっていた。イきたい。早く。
できるだけ頭の中から雑念を追い出し、快感に集中する。親指で鈴口をゴム越しにいじると、ぴりぴりとした刺激が駆け上がってきた。
「は、」
揺さぶりが激しくなり、きつめに握った。速い動きで突かれるたび、ぴりぴりとした摩擦の痛みと、じわっとした痺れと、何とも言えない疼きがうねる。
そこに湧き上がるような快感が加わって、息が詰まりそうだった。
「も、イ、く」
さすがに限界がきた。声が上擦る。
「どう、ぞ」
駿介の声もかすれている。
ようやくか。ごつっごつっと奥を抉られて鈍い痛みが駆け上がった瞬間、手のひらの中のものが跳ねた。根元から震えるような快感が上がってきて、息を止めて身を任せる。
好きにならせてくれるんだろう。
軽い痙攣を味わいながら、彼への文句を胸の中で言う。
あの人を忘れさせてくれるんだろう。だったら悠長なことをしていないで、早く。
射精は我慢していた分いつもより少し長かった。
反射的に中のものを締め付けながら吐き出すと、駿介も動きを止めて、何度か強く腰を押し付けてきた。
二人ともじっとしたまましばらく荒れた呼吸を整えていたが、先に駿介が動いた。中から抜かれてようやくほっと息がつける。
自分のゴムを外すと結んでからティッシュにくるんだ。
「これ」
彼はゴミ箱を持ってきてそのへんに散らばったものを全部入れると、ふたりでぱったりとベッドに倒れ込んだ。
「才能ねえのかなあ」
ひりひりする粘膜をもてあましながら眞樹はこぼした。
部屋の主はシングルベッドの狭さからさっさと起き上がって、キッチンからペットボトルのコーラとグラスふたつを持ってきた。
床に座り込んでペットボトルの蓋を開ける。
彼はこういうところがマメで、終わったあとは友達が家に来たときのようにもてなしてくれた。己の立場を考えるとありがたいような可笑しいような感じがする。
「何の才能ですか? サッカー?」
ありきたりな話題だと思ったのだろうか。眞樹は片頬で笑った。
「そんなの端からねえっての。そうじゃなくて、その、アレだ。ケツでイくやつ」
「……」
彼は嫌そうに眉をひそめながら、グラスにコーラを注ぐ。
「そういう物言いやめてもらえます?」
「わりー。でもどう言い換えたって同じだろ」
お上品ぶったとしてもやってることは男同士のセックスだ。尻の穴に男の性器を入れて快感を得る。
しかもそこには愛情もなにもないときた。重い体を引きずり起こしてベッドに座ると、一瞬駿介の目がもの言いたげに泳いだので、タオルケットを腰のあたりを隠すように置いた。
「うーん……。そういうことなら才能はあると思うんですけどね」
片方のグラスを差し出しながら、彼は根拠のないようなことを言う。
自分から持ち出した話題だったのに、広げられるとぞわっとした。才能って、何のだ。男のちんこで気持ちよくなることか。
それとも他人に内臓と心を明け渡すことか。
「あんのか。なんでわかんだよ」
投げやりに絡むと、駿介は眞樹の腰を指した。そのままくるくると回す。
「だってあなた、わりと中の感覚あるでしょう? 今までヤったことがないにしては反応は悪くないんですよ。そこに至るまでも早かったし。だからそれを上手く拾えたらいいんですけどね」
「感覚ねえ」
たしかにないことはない。彼の指摘通り、近頃は尻の穴から少し入ったところで、じくじくと疼く場所がある。
前を立たせてから触られたら、たまに身もだえするほどどうしようもなく切なくなった。
でも残念ながらそれ以上にはならなかった。どうやって拾えというのだ。身体のあちこちに力を入れたり抜いたりしながら増幅しないか試してみるものの、一定の時間がすぎると身体が醒めてしまう。
茶色い液体が満たされたグラスを受け取ると、眞樹はほとんど一気飲みして返した。
ほんのりと、拾ってしまったらどうなるのかを考えるのが怖くなってもいた。
「もしかしたらおまえがあまり上手くないとか」
「怒りますよ」
「こえー」
じろっと睨まれて、眞樹は肩をすくめてみせた。彼は可愛い顔をしているけれど、本気で怒気をにじませると結構怖い。
「ごめんって。もうちょっと努力するよ」
「一朝一夕でどうにかなるもんじゃありませんから、ゆっくり開発されていってください。家でも指とか道具で触ってみるとか」
「それはちょっと、恥ずかしくね?」
自分で異物を尻に入れるとか想像つかない。
ひとりで家にいる時間が長いとはいえ、後ろと使った自慰とか考えられなかった。頭を捻っていると、駿介は冷ややかな顔つきになった。
「あなた、真剣にやってます?」
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