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見えないもの5

尋ねれば、真琴はにこっと人懐っこそうな笑みを浮かべる。 「うん、よく歌う」 「もう一度、聞きたい」 俺は、何を言っているのか。 自分で言ったことに頭を抱えそうになる。 それでも、確かめたかった。 こいつの歌の何が、俺に興味を持たせるのか。 何が他とは違うのか、俺は知りたい。 無言で俺を見つめていた真琴は、再び笑みを浮かべる。 「うん。いいよ」 そう言って立ち上がると、立てかけられたギターを手に取った。 無意識に鼓動が速まる。 「あんま煩くすると怒られるから、ちょっとだけなー」 よっこらせと胡座をかき、ギターを構える。 ふっと自然な動作で、御厨は目蓋を閉じた。 静寂が訪れる。 静まりかえった室内。 その中で、御厨がすっと息を吸い込んだ。 瞬間、暖かなメロディに包み込まれる。 「…っ」 全身に鳥肌が立つようだった。 ギブソン特有の音色が奏でられる。 それに乗せて、つむがれる歌声。 優しく、暖かく、まるで幼子の頭を撫でるようなメロディ。 その中に感じられる、一抹の悲しさ。 こいつの音は、カラフルに色付いている。 あまりにも真っ直ぐに、心の奥底に無遠慮に踏み込んでくるものだから、此方は拒絶することすらままならない。

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