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見えないもの6

最後の音がつむがれ、御厨がゆっくりと顔を上げる。 そして次には俺の顔を見てギョッとしたような顔になった。 「な、成瀬、泣いてんのか…?」 「は?」 つぅっと頬を熱を浴びた滴が伝う。 お互い呆気に取られたように固まり、暫くの間無言で見つめ合っていた。 「……お前、意外と可愛いところあんの…」 皆まで言わせなかった。 瞬時に相手の背後に回り込み、その首を腕で締め上げる。 「し、しまってる…っ、しまってるから…!」 お助けー…!ともがく御厨を突き飛ばすように腕を解いた。 ゲホゲホ咳き込んでいる御厨から視線を逸らす。 ふと目に留まった窓の外は既に真っ暗になっていた。 「……そろそろ帰る」 「ん。でも平気か?夜の繁華街は危険だぞ?」 「子供扱いすんな」 「いや、でもあんな涙見せられたら…」 「あぁ?」 「イエ、なんでもないです…」 今すぐにこいつの記憶を消してやりたい。 立ち上がり帰り支度をしようとすると、何故か袖をくいくい引っ張られた。 「…なんだよ」 「泊まっていかない?」 「はぁ?」 泊まっていくとか、何考えてんだ。 訳が分からない。 「明日土曜だし、親には連絡入れとけばいいだろ?それとも門限とかに厳しいのか?」 「……家の中では殆ど顔を合わせないから、別に関係ないけど」 「ならいいじゃん!もうそんな子供でもないし、女の子でもないんだからさ。朝帰りするくらいなんでもないって!」 「おい、その言い方やめろ」

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