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文化祭6

「諦めろよ!」 「やだ!」 「俺以外でもいいだろ!」 「やだ!」 「やだやだって、お前は駄々っ子か!」 「やだ!!」 取り敢えず店の迷惑にはなりたくないので、俺は初めて御厨の歌を聞いた例の場所に移動していた。 何故こいつがこんなに俺に拘るのか分からない。 俺の歌を聴いたわけでも、特別親しいわけでもない。 それなのにこいつは、一歩も引かない。 「なんでそんなに俺に構うんだよ!?俺の歌聴いたこともねぇのに、意味が分から…」 「予感がする!」 「……は?」 一瞬思考が止まった。 つい目の前の男を凝視してしまう。 御厨は笑っていた。 その目を輝かせて、真っ直ぐに俺を見つめてくる。 「何かが始まる予感がする。だからお前がいい。お前じゃなきゃ意味がない」 「…っ」 綾人さんといいこいつといい、意味が分からない。 可能性…? 予感…? なんだよそれ…。 俺にはそんなもの、欠片も感じやしない。 「俺は…っ」 『あなたには才能があるのよ』 『歌うこと以外に何が残るというんだ』 『歌え』 『歌え』 ──歌いなさい、奏一。 「俺は、怖いんだ…っ」 歌うことが怖い。 何より怖い。 だって歌は、俺を見放した。 「俺は歌わないんじゃない…、歌えないんだ…っ」 「…?それって、どういう…」 「俺は…、歌に入り込めば入り込むほど…」 まるで、歌い方自体を忘れてしまったかのように… 声が、出せなくなるんだ。

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